Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚
「うーん……」
リルは耳の後ろに手をあて、聞き耳を立てながら首を傾げた。
その様子に、久居は内心の焦りを隠し尋ねる。
「どうしました?」
「ええと……。二人とも、寝てるみたい?」
リルの不思議そうな声に、久居はホッとした。
「そうですか……」
一昨日は譲原の通夜だった。
一晩中起きていた菰野は、それでも日中の仕事をこなしていた。
何かしていないと余計に辛い様子の菰野を止め切れず、久居はいつも通りの鍛錬に付き合った。
けれど菰野は、心も身体も疲労していたにもかかわらず、昨夜もろくに眠れていない様だった。
菰野にとって、城以外に心安らげる場所があってくれた事を感謝しつつ、久居は答える。
「助かります……」
「助かるの?」
リルが不思議そうに、くりっと首を傾げる。
と、その後頭部には、特大のタンコブがあった。
「リ……リル、その大きなタンコブは、一体…………??」
「コブ?」
言われて、リルが自分の後ろ頭を撫でる。
「うわあっ、本当だー! 大きなタンコブーっ!!」
そんなリルに久居は思わず突っ込む。
「気付いていなかったのですか?」
「そういえば、昨日寝るとき上向くと頭が痛かったんだけど……。どこでぶつけたのかなぁ……」
久居はその様子を見ながら思う。
これだけ大きなコブができるほどの後頭部の強打ともなれば、場合によっては気を失った可能性もある、と。
「リル、昨日は何があったのですか?」
「えっとー、昨日はお母さんと封具屋さんに行ってー……、お店のおじさんに、石に手を当ててって言われてー……」
久居は封具屋という聞き慣れない単語を気にかけつつも、頷きを返す。
「けど、気付いたら家に帰ってて、……よく分かんないの……」
やはり。と久居は思った。
(しかし、こんな小さい子に、意識を失うほどの何が……)
リルは半ベソで、痛むらしいコブをつついている。
「うー……。触ると痛い……」
「触らないでおきましょうね」
久居は仕方なく突っ込んだ。
作品名:Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都