小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

INDEX|12ページ/80ページ|

次のページ前のページ
 


 一方で、フリーは全力疾走に近い速さで、森の中を駆け抜けていた。
(リルが気付く前に戻らなきゃ!!)
 記憶を辿りながら、昨日の崖上の木を目指す。

 その頃、菰野もまた、昨日金色の何かが立っていたはずの場所を目指していた。
(この辺だったかな……?)
 なんとか傾斜の緩やかなところを見つけて、崖上側まで登った菰野は、崖下を見下ろす。
(ちょうどあのあたりで馬車が止まって……)
 そして、昨日の木を見つける。
(あ。あの木)

 フリーが目的の木を見つけたのも、丁度その頃だった。
(あの木の根元に、カゴが落ちてるはず!!)
 ラストスパートとばかりに、速度を上げる。

 まさか、近くに人がいるなんて、考えもしていなかった。

(――え……?)
 視界を塞いでいた木々の合間を抜けると、目的の木のそばに人が立っていることにやっと気付く。
(えええええええええええ!?)
 慌てて急ブレーキを掛けるも、全力疾走がそう簡単に止まるはずもなく、乾いた土の上を足が滑ると砂煙が巻き上がる。
(なんでこんなところに人間が!?)

 菰野は、木に近寄って、その幹にそっと手を伸ばしたところだった。

 フリーが、その人が昨日見かけた少年だと気付きかけた時、地面と摩擦勝負をしていたはずの足が、ゴギッと酷い音を立てて岩に激突した。

 フリーはその衝撃に転倒し、地を転がる。
(ゴギッて鳴った!! ゴギッてーーーーーーっ!!!)
 強打した足を抱えて転げ回るフリーに、近くの茂みが揺れ、菰野が異変に気付く。
(も……もうだめ……)
 フリーはなす術もなく、地に伏せた。

 しん、と静まり返った茂みから、菰野は視線を外さない。
 彼は確信していた。間違いなく、何かが居ると。

 息を呑み、それでもじわりと一歩、菰野は茂みへと歩を進める。

 じゃりっと砂混じりの地面が音を立てる音に、フリーが気付く。
(に、人間が近付いてくる!)
 ガバッと両腕で地を押し立ち上がろうとする。
(逃げなきゃ!!)
 けれど、足の痛みは想像以上で、ズキンと貫かれるような痛みに思わず小さく声を漏らす。
(う……動けない……)
 サーっと血の気が引いていく。
 足は今もズキズキと熱を持って痛みを伝え続けている。
(ああああもうっっ! なんでこんな時に怪我なんか!!)
 その間にも、一歩、また一歩と少年の足音が近付いてくる。
(この耳めーっ! なんでもっと早く気付かなかったのよーーーっ!!)
 全力疾走していたせいで、風の音に混じった人間の音に気付かなかった自分の耳を責めるも、そうこうしているうちに、こちらへと向かう足音は間近へ迫っていた。

 ついに茂みを挟んだその向こうで、足音が止まる。

(み……っ、見つかるっっ!!)

 菰野は、茂みへと手を伸ばす。指先が震えているのが自分でも分かる。
 知らない方が良い事だって世の中にはある事を、菰野は理解していた。
 それでも自分はこの茂みを分けようとしている。

 胸に、自分の事をこの世の何より大事に思っていてくれる一人の従者の顔が過ぎる。
 けれども、菰野は動きを止めず、その茂みを掻き分けた。

 なぜか、それに会うことは、危険な事ではない気がしていた。