Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚
「いーち、にーい、さーん」
妖精の村の外れ。そこからさらに結界の外へ出たあたりの木の根元で、リルは数を数えていた。
両手で耳を塞いでいる。目隠しがわりに、少年は木の幹に向かい合っているようだった。
「しーぃ、ごーぉ、ろーく……」
リルは先程のやりとりを思い浮かべる。
「いい? 三百数えるのよ!!」
フリーはビシッとこちらを指差して要求した。
「そ、そんなに……?」
思わず聞き返したのが間違いだった。
フリーはズズズと圧を増して、リルに覆い被さらんばかりに主張する。
「私はね? 毎日鬼ごっこでもいいんだけど? それだとリルが鬼ばっかりだから、たまぁぁぁぁぁぁぁには? リルの好きなかくれんぼに付き合ってあげようって言ってるのよ? わかる??」
「う、うん……」
圧倒されて頷くと、姉はリルの耳を摘んでこう言った。
「ちゃんと耳も塞ぎなさいよねっ! ほんっっと無駄に耳ばっかりいいんだからっっ!」
そんなわけで、今に至る。
……ボク、何かしたかなぁ……。
思わずリルの伏せた瞳から、ホロリと涙がこぼれる。
双子の姉であるフリーは、言いたいことを我慢するような人ではないが、理不尽に嫌がらせをするような人でもなかった。
きっと、気付かないうちに、ボクが何か、嫌なことをしちゃったんだろうな……。
リルは、自分が鈍感であることを理解していた。
けれど、それを分かったところで、自分にはそれ以上にできることはなかった。
リルは、姉が早く機嫌を直してくれることを祈りつつ、言われた通りにゆっくりと数を数え続けた。
作品名:Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都