マイカ4×4(フォーバイフォー)
03
ぼくはマイカ4×4に一本目のフィルムを入れた。フィルムがまだ安く使えていた頃には銀塩カメラをいろいろ使ったものだけど、中判フィルムを装填するのはこれが初めてだ。ちゃんとなってるか心もとない。
スタートマークを合わせてやって、巻き取りノブをまわしていくと、カチリと音がして止まる。フィルムカウンターに数字が出た。その辺りの機構はちゃんとしているわけだ。壊れていなきゃだが……。
果たしてそれが、今でも機能しているか。一本目は、それも含めてのテストということになる。
マイカに露出計は付いてない。ひょっとしたらなくなっている銘板にセレンメーターが付いていたのかもしれないが、そんなもの、あったとしても絶対イカレてるだろう。
35ミリの旧いカメラならいくつも使ってきてるから、単体メーターくらい持ってる。ダイヤル式で指針を合わせる簡単なものだが、これで充分リバーサルの露出だって当たるのだ。マイカと合わせるのにはちょうどいいだろう。
適当にパチパチ撮って歩いた。すぐにフィルムを使い切った。一本で十二コマしか撮れない。
夜を待って、部屋を暗くして、現像。127のリールなんてまさか売ってないだろうと思っていたけど、やっぱりなかった。けど35ミリと120の兼用リールがあったので、買ってきたそれの中間でフィルムを巻いた。現像。停止。定着。出来た。濡れたフィルムをぼくは光にかざして見た。白黒のネガ――まあ一応、像は出ている。少し多めに露出をかけるか、増感した方が良さそうだ。
次いでベタ焼き。大キャビネの印画紙に三コマずつ四つに切ったフィルムを並べて、上をガラスの板で押さえる。
白黒印画紙が感光しない赤い光の下での作業だ。ぼくは部屋の常夜灯の電球を赤のマジックインキで塗り、ガラス板には本棚のガラス戸板を外して使うことにした。後はこいつを現像すれば、ネガの大きさそのままの像が印画紙に出てくるわけだ。
しかし露光の見当がつかない。数秒ずつ、時間を変えて何枚かやった。
現像する。これはぼくだけの話なのかもしれないけど、カメラやレンズを買って最初の撮影というのは、なんだかやけにいい結果が出ることがある。特に中古カメラ屋のジャンク品の棚なんかで、ほこりにまみれていたようなやつ。ほんの二千か三千円。それを買って、汚れをきれいに落としてやって、フィルムを一本通してみる。そんなのが驚くほどいい写りをしてたりするんだ。発色がどうとかコントラストがどうのとか、そんなものとは違うのだけど、なんと言うかな、はっとするんだ。どうもカメラやレンズのやつが、新しい持ち主に気に入られようと、精一杯力を出しているのじゃないか……そんな気がすることがある。
今度のもそうだった。写真はかなり失敗したのが混ざってたけど、ちゃんと撮れてる何枚かはすごくよく写っていた。
4センチ角の小さな写真にルーペを当てて、ぼくはしばらくそれらのカットに見とれていた。写真をやってうれしいのはこんなときだ。他にはなんにもいらない。自己満足でかまわない。
けれど中に一コマ、どうしようもない写真があった。何が写ってるかわからない――それも道理で、撮ろうとして撮ったもんじゃない。
そのとき押しもしないのにシャッターが勝手に切れてしまったのだ。やはりどこか故障を抱えているらしい。
作品名:マイカ4×4(フォーバイフォー) 作家名:島田信之