マイカ4×4(フォーバイフォー)
04
次の日も休みだったから、ぼくはもちろん、マイカ4×4に二本目のフィルムを入れた。屋外でこいつの背中を開ける勇気はまだちょっとない。中判フィルムというやつ、なんで、こんな構造で光がカブらないのか不思議だ。
装填は今日も机の上でやった。一度に十二枚しか撮れないのじゃ少ない。と言って何本も使うのはどうも……ぼくはもう一台、デジタルのカメラを持って外に出た。
電車で何駅か行ったところにかなり大きな公園がある。池があって、魚が泳いで、水鳥も来る。そんなところだ。ぼくはカメラのファインダーを覗き込んだ。
どうも、〈向ける〉とか〈構える〉とかいう言葉は、二眼レフには似つかわしくないようだ。ぼくのマイカは寿司屋の湯呑みほどの大きさ――あれを四角くした感じだ。持ち方も、湯呑みを両手で持ってるみたい。
で、ファインダーを上から覗く。ピントは大体でいい。目測で距離を合わせて、絞る。それでなんとかなる。ルーペも付いてはいるけれど、邪魔なだけで役に立たない。
ぼくは写真を撮っていった。正方形の画面というのは、ただ正面から撮ればいい。ウエストレベルのファインダー。自然、まっすぐレンズを向けるようになって、撮りやすい。
フィルムを巻いて、シャッターをチャージ。今日はなんなく動いた。パチンとバネを弾くような音を立ててシャッターが切れる。
十二枚などあっという間だった。ぼくはそんなに早撮りが利くわけじゃあないんだが。もう一台のデジタルカメラは結局使う気になれず、そこで引き上げることにした。
夜が待ち遠しい。ロールペーパーに巻き込まれたフィルムを取り出すのは、完全な暗黒下でやらねばならない。けれど、ぼくの部屋では昼間にはどうしたって光が入る。
午後は気もそぞろだった。日が暮れるまで、ぼくは音楽を聴いて過ごした。
夜になった。ぼくはフィルムを現像した。水洗いしてフィルムを取り出し、クリップで止めて上から吊るす。
そうしてフィルムを見た。何か変だった。ネガに何か黒いものが写っている。
人影が。
ぞっとした。こんなことがあるわけがない。人なんか写るわけがない――いや、もちろん、人が写るわけあるんだが、しかしこんなことあるわけがない。
ぼくは別段、今日は人物撮影をしたというわけじゃないんだから。写るにしても二コマか三コマ、遠くに小さく写り込んでいるだけのはずだ。
なのに、どのコマも、どのコマも、十二コマ全部のカットに、黒っぽい服の――ということは、ネガなんだから、白っぽい服の――女の人が写っていた。
背景にほんの小さくなんてんじゃない。顔が大きくアップになっているのさえある。同じ顔だ。気味が悪い。ネガ像だ。だから気味が悪くて当然。
そういう問題じゃあない。
こんなはずがあるわけないんだ。たとえば――そうだ、たとえばだ、二重写しなんてことは考えらえれないか? ぼくが使ったのは撮影済みのフィルムだった。それをカメラに入れてまた、写真を撮ってしまったのだ。
そんなことがあるわけなかった。使ったのはリーダー部が表に出ている確かに新品のフィルムだった。箱の中に遮光包装されて入っていたものだ。その封は、断じて切られていなかった。そもそも35ミリならともかく、中判で巻き戻しなど有り得ない。
つまり、と思った。これはその。
これは悪い冗談だ。
なんだ冗談だったのか。良かった。まったくタチが悪い。人騒がせな。ビックリするじゃないか。ぼくはてっきり心霊写真だと
作品名:マイカ4×4(フォーバイフォー) 作家名:島田信之