左端から見れば全部右寄り Part.7
6.とあるチートの夫婦漫才
「なんや、あんた試験落ちたんやて?」
「面目あらへん」
「どないすんの? 生活設計ガタガタやん」
「まぁ、そう言わんと、もうしばらく食わしてくれへんか?」
「そやかて、今まであんたにいくらつぎ込んだ思うてんの?」
「まあええやん、どのみち税金やし」
「そら、原資はそうやけどな、あれはあたしの貯金や、あたしが不自由に耐えて耐えて、耐え抜いて貯めた金なんよ」
「そら、不自由やったかもわからんけどな、その分サポートも受けて来たんとちゃうか?」
「知らんわ、そないなこと」
「知らんてどういうことや?」
「産まれた時からずっとそうやったからな、サポートされんのは当たり前なんよ、だけど自由は欲しかったんや」
「してもろたことは当たり前で、出来んかったことは人のせい言うわけやな?」
「そないなるんかなぁ……でもな、どれだけ税金がつぎ込まれても、それはあたしが望んだことやない、ありがたく思え言われてもわからんわ」
「まあ、ワイもずっと人の金を当てにして生きて来たさかい似たようなもんやな、金は稼ぐもんやない、どこからか必要なだけ湧いて来るもんや思うてたわ」
「あんた、見栄っ張りやからなぁ」
「オカンに似たんやろな」
「そこんとこは納得や……で、これからどないするん?」
「2度目の試験なぁ……ムリや」
「一生懸命勉強したらええやん」
「……実家の方から働きかけられんか?」
「また他力本願かいな、そら、ロースクールは私立やから何とかできたしな、奨学金かて裏から色付けて補填する約束しとけばオッケーやったし、賞かて裏金で取らしたったけどな、州の試験はあかん、そこまではどうにもならへん、それともあんた、自信ないんか?」
「あのなぁ……試験の点数ばかりやないんや……」
「他に何があるん?」
「『誠実さと正直さ』言う審査もあってな……経歴とか盛ってたの、バレとるんや」
「あかん、そらあかんわ、『誠実さと正直さ』言うたらあんたに一番欠けとるところや」
「どうもスンマヘン」
「そのお辞儀もいい加減やめや、顔突き出してするお辞儀がどこにあるねん、そうでなくともデカい顔が余計にデカ見えるわ」
「そやかて、本気で頭下げたことないからどないしてもこないなってまうんや」
「ホンマにあんたって人は、30年ずっとそうやって生きて来たんやな」
「いまさら何を言うてんのや、おまはんはこの面の皮の厚さを見込んだんとちゃうんか?」
「まあ、そりゃそうやけどな……あんたやったらどないな誹謗中傷もシラッと受け流せる、そのデカい顔でウチの盾になってくれる思うたんやけどな……」
「そやろ? だけど結局あの短い会見で全部ばらしてもうてからに」
「そら違うで、あれはウチの魂の叫びや、あれ聞いたら『そうやったんか、辛うおましたなぁ、ちっとも知らなんでスマンかったなぁ』思うのが人の道っちゅうもんや、ウチはなんも悪ぅないで、悪いのは国民や」
「そやろか……でも、まあ、ええわ、もう婚姻届け出してもうたから何を言うて来ても後の祭りやさかいな」
「やっぱ、あんた、面の皮の厚さは人間離れしとるなぁ」
「そらそうや」
「お? ひらき直りやな、お得意の」
「ちゃうねん、前に頭部レントゲン撮ったことあるんやけどな、それ見て医者が驚いてたわ」
「なんて?」
「頭蓋骨は普通の大きさやったんや」
「どういうことや?」
「この顔の大きさはな、皮がとんでもなく厚いせいらしいで」
「ホンマかいな……でもあり得るな」
「……決めた」
「なにをや」
「弁護士になる言うのはやめて、ワイは俳優になる」
「……あんた、自分をそこまでイケメンやと思うてんの?……ある意味さすがやな」
「違うんや、出るのはバットマンや」
「バットマン? バットマンは顔小さいで」
「そやない、怪人の方や」
「ああ……なるほどな……で、何の役をやるん?」
「特殊メイクで耳まで裂けてる口を作ってな」
「ふんふん、その顔のデカさやったらさぞかし口もデカなるやろな、で、その怪人の名前は?」
「ビッグ・マウスや」
作品名:左端から見れば全部右寄り Part.7 作家名:ST