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狐鬼 第二章

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結果、はつねが小休憩に使用する
木製の丸椅子を借りる事になった男性は「くろじ」と、名乗る

「はつね」と「くろじ」の関係は言わずもがな
はつねの手前、二人は素知らぬ振りで初対面の挨拶(あいさつ)を交わす

「幼馴染(おさななじみ)の腐れ縁」

と、カウンターテーブルに手にした御冷(おひや)を置きながら付け足すはつねが
同棲(どうせい)相手である、くろじの紹介が遅れた理由を述(の)べた

くろじは街側で親子代代、サーフショップを経営しているが
夏場(オンシーズン)は休業して海外の海でサーフィン三昧(ざんまい)だったらしい

出発も行き成(な)り
帰着も行き成(な)り、の此(こ)の状況である

「良い御身分(ごみぶん)よねえ」

頗(すこぶ)る半目で嫌味を口にする、はつねにくろじが言い返す

「馬鹿たれ!」
「「野宿」に毛が生えた程度の極貧旅行だっつーの!」

言い返すも直(す)ぐ様、首(こうべ)を垂(た)れる

「!!悪かった!!」

多少、勢いに押される感はあるが此(こ)れ以上
痴話(ちわ)喧嘩を続けるのも何なのではつねもすんなり矛(ほこ)を収(おさ)めた

抑(そもそも)、くろじの性格は物心が付く頃から知っている

必要な事も
不要な事も言わずにはいられない

良く言えば「正直」
悪く言えば「馬鹿正直」

其処(そこ)が好き
其処(そこ)が好きで側にいるのだから、其(そ)れで良いのだ

「で帰国早早、乗った地元の「波」は如何(いかが)?」

ウエットスーツ姿なのは然(そ)ういう事なのだろう
自分との再会よりも「海」を選ぶ、サーフィン馬鹿だが仕方ない

馬鹿相手に惚(ほ)れた自分が悪い

「!!最高!!」

上機嫌に親指を立てて返す馬鹿相手にはつねも何気なく続けた

「で旅行の御供(おとも)の御友達は?」

『談笑交じり通り過ぎる』
『ウエットスーツに身を包み、小脇にサーフボードを抱えた男性達』

はつねの言葉にすずめも「御友達」の存在を思い浮かべる

途端(とたん)

親指を立てたまま
満面の笑みを貼り付けたまま硬直(こうちょく)するくろじが吃(ども)り出す

「ぅあ?、ああ、帰ったんじゃね?」

『良く言えば「正直」』
『悪く言えば「馬鹿正直」』

「嘘」を吐(つ)けない
「嘘」を吐(つ)いた所で暴(ば)れ暴(ば)れだが癪(しゃく)に障(さわ)る

「ふん?」
「其(そ)れ程、私に会うのが嫌なんだ?」

「御前、怒るじゃん、って違ーう!」

自(みずか)らの発言を
自(みずか)ら否定するも時 既(すで)に遅し、はつねが噛(か)み付く

「?!何が違うのよ?!」

日焼けした狐色の頭髪を掻(か)き毟(むし)るくろじが丸椅子から立ち上がる

「ああもう!」
「俺、誘ったよな?!、でも断ったのははつねだよな?!」

吐(は)き捨てる也(なり)
身を翻(ひるがえ)すくろじの背中目掛けはつねが叫ぶ

「何処(どこ)の誰が!」
「『「野宿」に毛が生えた程度の極貧旅行』に行きたがるのよ!」

「?!然(しか)も穢(むさ)苦しいサーファー仲間引き連れて?!」

『穢(むさ)苦しい』発言にくろじが勢い良く振り返る

「御前、彼奴(あいつ)等(ら)泣くぞ?!」

「!泣けばいい!」
「!!泣き叫べばいい!!」

何なら然(そ)う宣(のたま)うはつねの方が泣きそうだ

くろじも
くろじで本(ほん)の少しだけ泣きたくなってきた

事実、自分の周辺にはサーファー仲間が絶(た)えない
「商売柄(しょうばいがら)」と言えば然(そ)うだが、サーフィンに興味がない
はつねが蚊帳(かや)の外になる事も多い

故(ゆえ)の「同棲」だ
一分一秒を惜(お)しんだ故(ゆえ)の「同棲」だった

殆(ほとほと)、笑うよなあ
『幼馴染(おさななじみ)の腐れ縁』なのに何(ど)れ程、一緒にいたいんだか

自分の人生に於(お)いて

「はつね」も
「サーファー仲間」も切れない「モノ」だ

其(そ)れを今、此(こ)の場で告白しようが
其(そ)れが何だ?、と一蹴(いっしゅう)されるのは目に見えている

毎度毎度の「喧嘩」だ
何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も揶揄(やゆ)する犬も食わぬ「喧嘩」だ

然(そ)して仕舞(しま)いにははつねが退(しりぞ)くのが自分達の「喧嘩」だ

なのに、此(こ)の状況は極(きわ)めて可笑しい
退(しりぞ)く所か突き進んで来るはつね相手に如何(どう)すれば良いのか

退(しりぞ)いた事がない自分には「退(ひ)き際(ぎわ)」が分からない(笑)

作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫