狐鬼 第二章
32
結局、くろじと古着屋店主は
屋外(テラス)席で金狐、黒狐の お相伴に与(あずか)る事になった
黒眼鏡(サングラス)越し
自分(くろじと古着屋店主)達に涼しげな眼差しを呉れる
金狐に 同性でありながらも見入ってしまう
会話も
天気の話で始まって
天気の話で終わってしまう 有様だ
其れでも律儀に「中中の 秋日和だ」等(など)、受け答える
金狐が尻目に捉える 黒狐に囁やく
「気になるのか?」
実は 此の黒狐
硝子玉の如(ごと)く黒(眼)一色で分かり難いが
其(黒狐)の視線は ログハウス喫茶店(カフェ)の、店内に注がれている
我ながら 無意識だったのか
金狐に指摘されて、はっとしたように向き直る
黒狐が 八重歯を剥く
「は?!」
「ならねえよ、ならねえ!」
如何 みても「嫌よ嫌よも好きのうち」を見事に披露した
相手(黒狐)に 珍しく若気(にやけ)る
金狐の 黒眼鏡(サングラス)が陽射しを受けて 妖しい光を放つ(笑)
「恥じる事は、(ない)」
言い終わる前に 黒狐が声を荒げる
「!恥じてねえよ!」
「!恥じる云云(うんぬん)の前に 興味ねえよ!」
「!!人間の「牝(メス)なんかに!!」
是又、見事に脊髄反射を披露した
黒狐に「あぁあぁ 五月蝿(うるさ)い」と、ばかり しっしと 手で払う
突如、始まる(のか?)
喧嘩(なのか?)に真逆、はつねが原因とは露知らず
呑気にも くろじが疑問を口にする
「あれ?」
「君(黒狐)は「人間」じゃないの?」
(、今?!)
(、今 そこ?!)内心で突っ込む
古着屋店主は改めて くろじの「鈍感力」に感心する(けど、褒めてない)
是又、(傍らの)古着屋店主の内心 等(など) 露知らず
くろじはくろじで
海に臨(のぞ)む、国道沿い
二階建ての賃貸集合住宅、互いの自室 露台(ベランダ)隔板(かくはん)越し
真っ裸で 自分 (くろじ)と対面した白狐 (みやちゃん)の、彼(あ)の行為
彼(あ)れも「人間」として 可笑しな行為だったなあ、と 思い出す
瞬間、黒眼鏡(サングラス)を額(ひたい)迄、押し上げる
金狐は(向かい合う)くろじに身を乗り出す也(なり)
琥珀色の目(眼)を皿にして 見詰める
其の 行動に
其の 琥珀色の目(眼)に 戸惑う、くろじを余所に
笑みを浮かべる唇から「彼(あ)の、みや狐殿が?(!)」と、漏れる
次(つ)いで((「人間 (くろじ)」相手に)マウンティングを?)
到底、此の場の「人間」には 聞き取れない
金狐の言葉を聞き取った
横にいる 黒狐に至っては
信じられない(否、信じたくない)様子で口を開けたまま 固まっていた
軈(やが)て すっと身を起こす
(琥珀色の)眼を伏せる 金狐が沈痛な面持ちで 吐露する
「申し訳ない」
「弟(黒狐)は自分を「犬」だと 思い込んでいる」
「其れは其れは 可哀想な奴なのだ」
金狐の告白に
控えめに点頭する くろじは 素なのか、同調(ノリ)なのか
至極、憐憫な目差しを(黒狐に)向ける
(金)「手綱を緩めれば」
「所構わず 粗相をするので殆(ほとほと)、手を焼いている」
(く)「まあまあ」
「それはそれは、(同情)」
二人(金狐と くろじ)の 遣り取りに混じらず 眺める
古着屋店主は 此れはこういう演劇(プレイ)だと、納得したが
俺は 納得したけど、
と、視線を向ける 先
紙のように 色白の顔面を真っ赤にして つんつん頭の毛の先 迄
震わせている黒狐を見ると若干、気の毒になった
何やら 話し込む様子に気が気じゃない
ログハウス喫茶店(カフェ)
屋外(テラス)席 木製両開き扉 硝子越し、彼方(あちら)側を覗(うかが)う
すずめに 厨房にて(注文品を用意する)はつねが声を掛ける
「、ずめ」
「すずめ」
何度目かの 呼び掛けに
過剰な程 肩を跳ね上げるや否や
「?!はい?!」
勢い良く自分 (はつね)を振り返える
すずめに はつねが暴露する
「あの、二人(金狐と黒狐)の事」
「くろじは「ホスト」関係だと 思ってる」
「で、相方(古着屋店主)は「貴族」関係だと 思ってる」
「どこの、三文小説よねえ」
然(そ)うして
「あっはっは!」と、取って付けたような 笑い方をする
はつねは「真実は小説よりも奇なり」の、事実(いま)を如何 思うのか
自棄糞(やけくそ)なのか 尚も笑うのを止(や)めない
はつねを前に愈愈、すずめ自身も笑うしかなく
(はつねと)一緒に「あっはっは!」と、声を上げながら
悪足掻き的 思考で思い付く
この勢い(速さ)なら言える!
(どの勢い(速さ)だよ!)
(す)「実は、」
「実は、みや狐ってば 神狐(様)なんですよ〜」
(は)「「しんこ」?」
「なにそれ?、おいしいの?」
(す)「(神狐 程)食えたもんじゃないです!、あっはっは!」
速攻、(今更だが)誤魔化すように一層 哄笑した
自分 (すずめ)に首を傾げながらも「あっはっは!」と 笑い続ける
はつねに向けて(是又、思い付きで)呟やく
(す)「、ぬるぽ」
(は)「ガッ」
同時に 互いの顔を墨墨(まじまじ)、見詰める二人( すずめとはつね)が
同時に 吹き出したのは 言う迄もない(え?)
黒糖 タピオカミルクティー(金)
タピオカ抹茶ミルク(黒)、珈琲(く、古)二客に、ホットココア(す)
流石に 此の量を盆に載せて
すずめ一人で運ぶには余りにも 危険(リスキー)過ぎる
(ので)客人二人(金狐と黒狐)の注文品を載せる盆を抱えた
はつねが(すずめと)共に屋外(テラス)席に向かえば
何とも フランクな雰囲気で 三人(笑)が会話している
天気の話から始まった 四人(金狐、黒狐、くろじ、古着屋店主)の会話は
「弟(黒狐)犬」から再び「天気」に戻るが
くろじが「サーフィン日和だなあ、」と 独り言ちたのを切っ掛けに
「サーフィン?」と 興味を持つ 金狐と話に花が咲く
此処 迄(まで)、傍観を決め込む(シャイなの←古着屋店主)
古着屋店主も サーフィン談話には参加した結果
一人残され「詰まらん」とばかり 頬杖を突く
黒狐は 貧乏揺りが止まらない
と、其の 作業員(エンジニア)深靴(ブーツ)を自身 (はつね)の爪先で突っ突く
はつねが、くろじと黒狐の間(ま)に 立つ
「、あ?(怒)」
迎え撃つ気満満で 構える
黒狐に 注文品を置きながら、はつねが笑顔で釘を刺す
「さこちゃん」
「すずめを苛(いじ)めたら 容赦しないからね」
「、いじめ?」
其の 言葉は余りにも幼稚だ
故に(黒狐)自身も 幼稚扱いされたようで
眼を剥く 黒狐が眉を吊り上げる
此の 黒狐の威嚇は
残念ながら、はつねには無意味だ
(黒狐の)紫黒色の 硝子玉の如く眼を見下ろす
はつねは 瞬きすらしない
「苛(いじ)め、でしょ?」
「自分よりも 弱いものを意気揚揚 苛める」
「幼稚な 行為」
「苛めでしょ?」
唐突の、はつねの有無を言わせない態度に
ログハウス喫茶店(カフェ)屋外(テラス)席一帯は 修羅場と化す