狐鬼 第二章
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ログハウス喫茶店(カフェ)
屋外(テラス)席、屋外(テラス)椅子に腰を下ろす
然うして
黒眼鏡(サングラス)越し
品書(メニュー)を一見する 金狐が即答する
「黒糖 タピオカミルクティーをお願いしたい」
、あ それ(ひばりへの)お土産にしようと思ってたけど、
と、内心 突っ込む
すずめに 笑い掛ける金狐が進言する
「他人(ひと)に話す事は お勧めしない」
もう 心を読まれる事に抵抗はない(訳もないが)
先程の「助け舟」は(金狐自身)不本意ながらの「牽制」だと 理解した
金狐の向かい側に腰 掛ける
すずめは
「、はい」
と、答えて 自分の立場を思い出す
「母親を捨てて」
「父親を捨てて」
「此の場所を捨てて、一人で生きていこう」
たかとの「指切り」を思い出す
「約束してくれたら此れ以上、殺さないよ」
「誰も」
「誰もね」
如何して 忘れていたのだろう
此処に 至る理由
此処に 至った理由を如何して忘れていたのだろう
もう一度「はい」と 返事をする
すずめの横で、金狐が口にした呪文のような言葉に
品書(メニュー)を穴の開くほど見る 黒狐が眼を瞬(しばたた)かせて 言う
「なんなんだよ、それ?」
取り合う事もなく知らん顔を決め込む
金狐が腕組みして眼前に広がる 大海原を眺める
「「下」も 随分と様変わりしたようだが」
「不思議だな」
「全てが懐かしい」
「ああそう」
仕返しとばかり
素気無く答える(答えた時点でお前(黒狐)の負けだ←金狐)
黒狐が 横のすずめに「西米(タピオカ)って なんだよ?」と 聞きつつも
「「位(くらい)」なんか 貰うから不自由なんじゃねえの?」
金狐に吐き捨て
結局、其(金狐の注文)の下の「タピオカ抹茶ミルク」に 決める
天を仰(あお)ぐ
金狐が 露骨に溜息を吐く
「未(ま)だ 根に持っているのか?」
其(金狐)の言葉に
屋外(テラス)椅子の背 凭(もた)れに思い切り 寄り掛かる
黒狐が外方を向く也(なり)、鼻を鳴らす
「別に(ぃ)、り狐の勝手だろ?」
突然「下」から戻って来たと 思えば
突然 白(みや)狐に「社」を譲ったと 思えば
突然「位(くらい)」を持つ 神狐になり自分(黒狐)と会う機会も(碌に)ない
「「下」に行ったのも(お陰で俺は独りぼっち)」
「みや狐に「社」を譲ったのも(お陰で俺は、以下略)」
「耄碌(もうろく)爺供の相手をするのも(お陰で、以下略)」
然うして
硝子玉のような 紫黒色の眼を回して
仰け反る 頭の後ろで腕を組む
「俺には全然、関係ない話だろ?」
然う 言いながらも
明白(あからさま)に不満顔をした黒狐に 金狐が眉を顰(ひそ)める
「然ういう顔をするな」
「唯でさえ 不細工な面(つら)が 更に不細工になる」
至極、真顔でdisる金狐に 黒狐は絶句する
居合わせる すずめは噴き出すのを堪えつつ 品書(メニュー)で顔を隠す
仕舞いには
「本当に 俺の「弟」か?」
金狐の 容赦ない台詞(セリフ)に
反論する処(どころ)か 怒りに震える声で受け入れる
「!、そーかい!」
「じゃあ!」
「俺か、兄貴か?、何方(どっち)かが親父の隠し子なんだろーよ!」
兄貴(金狐)と同じく
(親父の)目的は知らねえが「下」に入り浸ってたんだ
何処ぞの「社」の神狐(牝)と 好い仲だったのかもしれねえし!
(お袋御免←さ狐)
だが、鼻息荒い黒狐を前に
黒眼鏡(サングラス)の向こうで眼を伏せる 金狐があっさり 否定する
「残念だが、違う」
潮風に靡(なび)く
顔に掛かる 前髪を掻き上げて、付け足す
「小汚い黒毛だが(おらぁ←黒狐)」
「お前は 間違いなく「弟」だ」
金狐の言葉に すずめは顔を隠す
品書(メニュー)で誤魔化しながら二人(金狐と黒狐)を見比べる
何処となく 似ている気もするけど
何処が似ているのか すずめには今一(いまいち)、分からなかった
然(そ)して 細やかに笑う
相手(金狐)の様子に 満更でもない顔をする
黒狐を 即座に金狐は突き放す
「だが 懐くな」
更に 追い討ちの「気色悪い」の言葉に
到頭、堪え切れず声を上げて笑う すずめに向かって
黒狐が噛み付く勢いで八重歯を剥くが 金狐の咳払いで止(とど)まる
場都合 悪く口元を押さえた
すずめに金狐が 言う
「然うだ」
「巫女たるもの「笑顔」でなくてはならない」
其の言葉に、すずめは目を丸くする
「其れが「神狐」の 幸福になる」
ひばり同様
不安な気持ちを抱えているであろう
自分 (すずめ)を気遣い、金狐は笑かせてくれたのだろう
「、ありがと、ございます(!)」
素直に 嬉しくて
素直に 礼を言って(注文すべく)屋外椅子から立ち上がる
すずめに 金狐は「如何 致しまして」と、頬笑む
当たり前のように
不貞腐(ふてくさ)れる 黒狐は(すずめの解釈に)全然、納得がいかない
何故なら 自分(黒狐)を出汁(だし)に使う
金狐の弄(いじ)りは 何も今に始まった事ではないからだ
こーゆーとこ
馬路(まじ)、親父そっくりで うんざりする
ログハウス喫茶店(カフェ)
屋外(テラス)席 木製両開き扉の硝子越し、顔面(でこ)を張り付ける
くろじと古着屋店主が
「駆け落ちした「御令息」を連れ戻しに来たのか?」
「将又(はたまた)」
「足抜け(え?)した ホストを追い掛けて来たのか?」
等等(とうとう)、互いの意見を述べて
「何(いず)れにしろ、只事じゃねえ」
と、締め括(くく)る 二人(くろじと古着屋店主)に対して、はつねが苦言を言う
「あんた達は、オバタリアン(死語)か?」
(はつねを)振り返える
二人(くろじと古着屋店主)の 好奇心で爛爛と輝く目に呆れるが
はつね自身も何(なん)だ彼(か)んだ其処から離れられずにいた
瞬間、屋外(テラス)席 木製両開き扉が開かれる
すずめの小さな悲鳴と共に 木製両開き扉、硝子に張り付く
くろじと古着屋店主が素っ頓狂な声を上げて 屋外(テラス)席の床に転がった