狐鬼 第二章
木製片開き扉の奥
不断(ふんだん)に木材を使用した喫茶店(カフェ)とは違い
白を基調にしたP(プラスチック)タイルの洗面室、スクエア洗面 器(ボウル)に突っ伏する
水栓 取手(レバー)を上げた瞬間、掬(すく)う流水で顔を拭(ぬぐ)う
「はつね」は似ていない
「歳」も違う
「顔」も違う
「声」も違う
「何」もかも違う
然(そ)う思えば思う程、「はつね」は似ている
水栓 取手(レバー)を下げる
拭(ぬぐ)っても拭(ぬぐ)っても滴(したた)る水滴に嗚咽(おえつ)が零(こぼ)れる
如何(どう)にも涙が止まらない
何も変わらない
何も変わらない
其れでも失ってしまった「モノ」が此処(ここ)にはあった
到頭(とうとう)、足元に頽(くずお)れるすずめは
失ってしまった、其(そ)の名前を口にした
「ちどり」