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狐鬼 第二章

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「はい、いらっしゃい」

笑顔満面、前掛(エプロン)姿で出迎えた
女性店主が二人を食卓(テーブル)席へと案内する

席に着く也(なり)、ついと白狐が見上げる頭上
解放感ある高天井に扇風機(シーリングファン)照明(ライト)が緩緩(ゆるゆる)、回る

海岸に面した小ぢんまりだが目を引く、ログハウス喫茶店(カフェ)

此(こ)の、ログハウス喫茶店(カフェ)の女性店主である「はつね」は
二人が越して来た海に臨(のぞ)む、国道沿い
二階建ての賃貸集合住宅(アパート)の御隣りさんでもある

「何、食べる?」

御冷(おひや)と品書(メニュー)を差し出すはつねが
嗄声(ハスキーボイス)の弾む様な心地良い声で訊(たず)ねる

微かに息を呑む、すずめの傍(かたわ)らで
白狐も眼の前の似寄(によ)る「珠(いのち)」に翡翠(ひすい)色の目を伏せる

然(そ)うして品書(メニュー)を見遣るも文字等、頭に入って来ない

胡桃(くるみ)色の長目の髪を丁寧に編み込んだ
胡桃(くるみ)色の目を細めて笑う、はつねは似ている

抜け澄んだ曇りのない瞳は以前、失ってしまった「モノ」と似ている

想えば想う程、会えないのに
想えば想う程、会わずにはいられない

其(そ)れが最良な事なのか
其(そ)れが最悪な事なのか分からないが生憎、止(とど)める気はない

すずめの「人生」に於(お)いて
自分の存在は道端の小石に過ぎない

道の先に
道の後(あと)に転がっている小石に過ぎない

口出し等、言語道断

不図(ふと)、見遣る品書(メニュー)が
眼の前から移動するのに気が付いて白狐が顔を上げる

然(そ)うして意味ありげに含み笑いをする、はつねの目と眼が搗(か)ち合う

「何時(いつ)もの?」

引っ越しの挨拶に行った際(さい)
引っ越しの粗品の御返しに

「御店の残りだけど馬路(マジ)、自信作」

と、稲荷寿司を御馳走になった結果
以来、白狐は其(そ)の「自信作」の虜(とりこ)だ

当然、頷く白狐に「了解」と返事をするはつねが
すずめに向き直るも彼女の、自分を見詰める目が潤んでいた

「え、っと、すずめは?」

其(そ)れでも努(つと)めて微笑むはつねに名前を呼ばれた瞬間、溢(あふ)れた

「?!すずめ?!」

周章(あわ)てるはつねに
是又(これまた)、周章(あわ)てるすずめが矗(すっく)と立ち上がる

「!御免(ごめん)なさい、私、御手洗(トイレ)!」

すずめの背中を追い掛けようとも
肝心(?)の白狐が全(まった)く動じないのではつねも仕方なく踏み止(とど)まる

到頭(とうとう)、今日は耐え切れなかった様子だ

心中、独(ひと)り言(ご)ちる白狐を余所(よそ)に
はつねは今一(いまいち)、二人の(微妙な)関係を把握出来ずにいた

明白に「兄妹(きょうだい)」ではない
とは言え不明だが「恋人」でもない気がする

興味半分、勘繰(かんぐ)る自分を恥じつつも
御節介(おせっかい)な性分故、放って置けない気持ちもあった

此(こ)の二人の「糸」は
今は(?)「赤」ではないが別の「色」で結ばれているのだろう

作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫