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狐鬼 第二章

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「夏場過ぎ〜、客足途絶え〜、我本望〜」

くろじが詠んだ川柳通り
街側で親子代代、経営するサーフショップは閑古鳥が鳴く

不断(ふんだん)に木材を使用した
はつねのログハウス喫茶店(カフェ)とは違い
昭和 懐古趣味(レトロ)な商店街に突如、出現するコンテナハウス

其 (コンテナハウス)の店内で
色取り取りのサーフボードに囲まれるすずめが
「此れって(自分が)いる意味あるのかな?」と、唸(うな)った瞬間

サーフブランドのロゴを硝子(ガラス)一面に貼り付けた
店内扉を開けて一人の客が入店する

「いらっしゃいませ」と、挨拶する前に
「あれ?、くろ(じ)は?」と、すずめに尋(たず)ねてくる

「小小、お待ち下さい」

頭を下げる也(なり)、慌てて勘定場(レジカウンター)の奥に設置してある
化粧室(トイレ)に駆け寄り厳(いか)つい扉を(控えめに)叩く

「店、(長でいいんだよね?)」
「店長、お客様です」

当然、化粧室(トイレ)内から返事がある

「後、半分」

「腹、痛え」と、化粧室(トイレ)に篭って数十分
「後、半分」とは?、と、首を傾げるすずめに化粧室(トイレ)の主 (くろじ)が付け足す

「ああ、煙草の話ね(笑)」

如何やら(サーフショップ)店前に設ける
喫煙所に向かう手間を惜しんだ(?)くろじは化粧室(トイレ)内で一服していたようだ

「急いで吸って下さいね」
「お願いします」

然う言う也
客の元へと駆け戻り「小小、お待ちください」と、対応するも
自分の顔面(かお)を、まじまじ眺める相手(客)が指を鳴らす

「ああ、思いだした」
「昨日くろ(じ)が軟派(ナンパ)した子(コ)じゃん」

「あ、」

相手(客)とは違い
思いだすよりも先に声を上げるすずめは「記憶」の抽斗(ひきだし)から
昨日の「出来事」を引っ張りだす

背後を談笑交じり通り過ぎる
ウエットスーツに身を包み、小脇にサーフボードを抱えた男性達

「あれ?」
「真逆(まさか)、くろ(じ)の軟派(ナンパ)が成功したって事?」

目の前の彼女 (すずめ)を見詰め
自身(客)の顎髭を親指と人差し指で啄(つい)ばむみ、記憶をたどる

彼女の名前を呼ぶ
彼女の側に駆け寄る「彼氏」は遠目にも格好良かった筈

途端

「彼方(あっち)のさ」
「彼氏の方がくろ(じ)なんかより全然、イイと思うよ」

「抑(そもそも)、彼奴 (くろじ)」
「彼女 (はつね)いるし」

相手(客)が至極
残念そうに吐き捨てる展開に

「軟派(ナンパ)」発言は否定
「彼女(はつね)」発言は百も承知

と、縦へ横へ頭を振るすずめの背後
早早に一服を終えたくろじが客(サーファー仲間)を見る也、質(ただ)す

「だーから!」

「(はつね同様)お前もか?」
「俺は「寒くないですか?」って声を掛けたんだって」

「ね?」すずめに向け
同意を求めて首を傾げるくろじに相手(サーファー仲間)は鼻でわらう

「本気(マジ)で言ってんのか?、お前」

「当たり前だろ」
「俺はな、俺なりに七年前の事を後悔してんだよ」

何(なん)なら今だって彼(あ)の時の事を後悔しない日日はない
後悔した所で何(なん)の意味もないが其(そ)れでも後悔しない日日はないんだ

等(など)、自らを省(かえり)みるも
其の気持ちを汲む気のない相手(サーファー仲間)の「へえ?」という
小馬鹿にした相槌に噛み付く寸前

傍らのすずめが身構えたのを目敏く確認した
くろじが標的(ターゲット)を変更する

「何か疑ってる?」

唐突、くろじに問われて
二度見するもすずめは努めて落ち着いて受けて応える

「、何も疑ってないです」

辿辿(たどたど)しくも返えす
此の返答を(素直に)納得すればいいものをくろじは半目を呉(く)れて続ける

「否否(いやいや)、普通(フツー)に疑ってる?」

「、否否(いえいえ)、普通(フツー)に疑ってないです」

律儀にも馬鹿の相手をする
すずめの様子を多少、面白がり勘定場(レジカウンター)に寄り掛かりながら眺める
顎髭を啄(ついば)むサーファー仲間が食(は)み出る一本を無意識に引っこ抜く

結果、痛かったのか
思わず呻くも二人は全く気にも留めない(ぴえん)

「否(いや)、絶対(ぜってー)疑ってる?」

「、否(いえ)、絶対(ぜってー)疑ってないです」

段段、意固地になり始める二人を余所(よそ)に
顎髭を撫で撫で口唇(くちびる)を歪める、サーファー仲間だが偶然にも聞いていた


『白白(しらじら)しい』
『白紙の世界』

砂浜に佇む彼女に足を止めた
くろじが呟いた言葉を自分(サーファー仲間)は偶然にも聞いていた

「危(やば)いだろ、彼(あ)れ」


然うして

「七年前」といい
「今回(昨日)」といい

お前 (くろじ)は
お前 (くろじ)が思う以上に御人好しなんだよなあ

はつねといい勝負だし
はつねと似た者同士お似合いだよ、お前 等(ら)

好い加減
此の遣り取りを終わらせるべく、手を叩いて制する

「はいはいはい」

「お二人さん」
「そろそろ接客(仕事)しましょうね?」

サーファー仲間の当然の指摘に我に返るすずめから目を動かす
くろじが真顔で問い掛ける

「客?」
「客か?、お前」

一瞬、考える(振りをした)サーファー仲間が肩を竦(すく)める

「否(いいや)、客じゃねえな」

顔を見合わせ悪餓鬼の如(ごと)く笑う
其(そ)れが開始の「合図」かのように身を屈める
くろじが勘定場(レジカウンター)下、収納されていたのか
手にした屋外(アウトドア)椅子を相手(サーファー仲間)に手渡す

然うして(何時もように)他愛ない駄弁(だべ)りを始める前に
と、傍らのすずめにお願いする

「三軒隣に潰れ掛けの珈琲(コーヒー)屋があるから」
「お使い、頼める?」

言いながら金銭登録機(キャッシュレジスター)を操作する
開(ひら)いた抽斗(キャッシュドロア)から数枚、札を取り出すくろじに
サーファー仲間が「俺、婆(ばばあ)ブレンドね」と、透(す)かさず注文した

其の「婆(ばばあ)」という単語に目を丸くする
すずめにくろじが笑い声を上げる

「然う然う」
「今も昔も看板娘の婆(ばばあ)が三人 (も)いるから」

「ああ、昔は婆(ばばあ)じゃなかったけど(笑)」一応、擁護(フォロー)するも
「婆(ばばあ)」「婆(ばばあ)」連呼する会話に面を食らうのは当然だが
其(そ)れも店の名前を知れば納得するし、納得しないかも知れない

『波女』

何(なん)とも海好き?らしい店名で読み方は(客)各各に任せているが
少なくとも此(こ)の二人は「婆(ばばあ)」で入力(インプット)している

「でさ」

「すずめちゃんも休憩入ってよ」
「珈琲屋(ここ)、蒲餅(パンケーキ)が美味いからお勧めね」

御使いも仕事の内なので
札を受け取るも「休憩」案には正直、賛同しかねる

「(私)全然、労働してないです」

だが、無問題とばかりに
「うんうん」頷くくろじが其の背中を押しながら出入口へと促(うな)がす

「今日は「初日」だしね」
「ゆっくり休憩して、ゆっくり仕事に慣れていこう」
作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫