小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

狐鬼 第二章

INDEX|12ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 


第二 戦(ラウンド)開始かと思えば戦意喪失する
くろじの様子にはつねも小さく頷(うなず)いて、カウンターへと戻って行く

先程の喧嘩とは丸(まる)で様相(ようそう)が異(こと)なる
心配し出すすずめに「気にしないで」と、気遣うくろじが白狐の席に腰を下ろす

他意(たい)はない
偶偶(たまたま)、身近な席に座ったに過ぎない(眠いし腹減ったし、略)
其(そ)れでも気色(けしき)ばむ白狐をすずめは自分の隣の席へと促(うなが)した

「稲荷寿司」

「、え?」

「俺の、稲荷寿司」

二人の遣(や)り取りに気が付いたくろじが
「ああ、めんごめんご」と、はつね同様に昭和の死語で謝罪する相手に
鼻を鳴らす白狐に稲荷寿司の長角皿(ちょうかくざら)と湯呑茶碗を手渡す

途端(とたん)、くろじの腹の虫が鳴くが白狐は涼しい顔で受け取る

自分の食べ掛けのオムライスを差し出す訳にもいかず
おろおろするすずめを余所(よそ)に愈愈(いよいよ)、くろじは食卓(テーブル)席に突っ伏す

其(そ)のまま屋外(テラス)席に続く木製両開き扉
店内を反射して映す硝子(ガラス)越し、カウンター内のはつねを眺めていた

「如何(どう)しよう、大事(おおごと)になっちゃったのかも?」

我関せず、と稲荷寿司に伸ばす腕を掴(つか)まれ前後に揺さ振られる
御預け状態に若干(じゃっかん)、唇を「ヘの字」にする白狐が渋渋(しぶしぶ)、答えた

「自業自得だ、と捨て置きたいがはつねは怒っていない」

思いも寄らない内容にすずめは白狐を凝視した
此(こ)の会話にくろじも飽(あ)く迄も知らん顔で耳を攲(そばた)てる

「彼(あ)れ、怒ってないの?」

然(そ)うして盗み見る
カウンター内の厨房で作業をしていたはつねの表情は明らかに険しい

「心中は別だ」

其(そ)の発言に何を思ったのか
目ん玉をひん剥(む)くすずめが小刻みに首を左右に振るが、其(そ)れは誤解だ

当然、白狐も顔を綻(ほころ)ばせて頭を振る

別にはつねの「心中」を覗き見た訳ではない
抑(そもそも)、「巫女(みこ)」以外の人間に触れずに覗く事等、自分には出来ない
其(そ)れは自分に与えられた「芸当」ではない

故(ゆえ)に俺は「眼」が良い(笑)

人間 等(ら)には見えぬ「モノ」が自分 等(ら)には見える
唯(ただ)、其(そ)れだけの事だ

然(しか)し未(いま)だ無言を貫(つらぬ)くはつねに
居心地が悪いすずめは今一(いまいち)、白狐の意見に賛同出来ない

出来ないが、軈(やが)て重苦しい空気の中
何とも食欲を唆(そそ)る、香(こう)ばしい匂いが立ち込める

最初に反応したのは、白狐だ
「白狐」から遅れる事(こと)数分、「匂い」を嗅(か)ぎながらくろじが顔を上げる

然(そ)して「くろじ」から遅れる事(こと)数秒、「匂い」を辿(たど)る
すずめが八角皿を手に此方(こちら)に向かって来る、はつねの姿に気が付いた

到頭(とうとう)、突っ伏した上半身を起こす目の前、鳴門(なると)巻き入り炒飯(チャーハン)
自分の大好物を置かれて当然、くろじははつねを仰(あお)ぎ見る

其(そ)の悲哀に満ち溢れた
腹を空かせた子犬の様な眼差しに思わず吹き出す、はつねが言う

「御帰りの、召し上がれ」

直(す)ぐ様(さま)、くろじは首(こうべ)を垂(た)れて両手を合わせる

「只今(ただいま)!、の頂(いただ)きます!」

手に取る散蓮華(ちりれんげ)で解(ほぐ)す
鳴門(なると)巻き入り炒飯(チャーハン)を我武者羅(がむしゃら)に食べ始めた

笑顔満面、くろじを眺めるはつねの姿に
すずめは狐に抓(つま)まれた様な顔をして首を傾(かし)げる

隣(となり)の様子に白狐が翡翠色の眼を細めて笑う
然(そ)うして其(そ)の耳元に私語(ささや)く

「理解しなくても良い」
「此(こ)の世に理解出来る「モノ」は極端に少ない」

故(ゆえ)に思い合うのだろう
故(ゆえ)に寄り添うのだろう

故(ゆえ)に愛し合うのだろう

「然(そ)うだろう?」
と、問い掛ける言葉にも首を傾(かし)げたままのすずめだったが
当の白狐が「御仕舞(おしまい)」とばかりに稲荷寿司を食べ始めたので
自分も食べ掛けのオムライスに再度、両手を合わせて「頂(いただ)きます」と、口にする

刹那(せつな)、小さく呟(つぶや)く

「はつねさんの笑顔って素敵だよね」

『「歳」も違う』
『「顔」も違う』
『「声」も違う』
『「何」もかも違う』のに

其(そ)れでも切ない
其(そ)れでも恋しい

其(そ)れでも会いたくて仕方がない

徐徐(じょじょ)に徐徐(じょじょ)に込み上がる「感情」を
飲み込む様に只管(ひたすら)、オムライスを頬(ぼお)張(ば)り続けるすずめに
是又(これまた)、稲荷寿司を丸呑みし続ける白狐が白(し)れっとして言う

「俺は、すずめの笑顔が好きだ」

作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫