小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

狐鬼 第二章

INDEX|13ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 


唐突(とうとつ)な衝撃発言(カミングアウト)

スプーンを咥(くわ)えたすずめが幾分(いくぶん)、噎(む)せ出す
『噎せる彼女の背中を「大丈夫か?」と、擦る白狐に頷いて答える』

『「、変な事、言うから あ」』

『「俺のせいか?」』

朗朗(ろうろう)と問(と)われて
『伊達眼鏡越し、翡翠色の眼を覗き込む』
『何処迄も澄んだ其の眼を覗き込む』

『「、だったら如何 します?」』

と、問(と)い返した何時(いつ)かの昇降口の片隅

『此の髪型は「マッシュウルフ」と、でもいうのだろうか』

『襟足、長めの黒髪に当校の制服に身を包んだ』
『一見、問題なさそうな男子生徒だが』
『顔に掛かる前髪の隙間から覗く、翡翠色の双眸は誤魔化せない』

『「すまん」』

『思い掛けず、すんなり謝罪した』
『白狐に彼女も、ばつの悪そうな顔で謝る』

本当に然(そ)うなのか?
本当にみや狐(こ)の所為(せい)なのか?

自分自身、問(と)い質(ただ)す

『煌煌しい満月の下』
『神神しい鳥居を前に、すずめは立ち尽くす』自分の姿を思い出す

『見上げる鳥居には注連縄が張られ』
『下げた紙垂が夜風に揺れた』

『鳥居中央に扁額が掲出してある』其(そ)れを見上げる自分の姿を思い出す

「御免(ごめん)」
「御免(ごめん)、みや狐(こ)」

問(と)い質(ただ)した結果、謝罪を口にするすずめに白狐が訊(たず)ねる

「何故、謝る?」

「悪いのは「俺」だ」
「悪いのは全て「俺」だ」

然(そ)うだ
然(そ)うだった

自分の心中等、みや狐(こ)には筒抜けなのだ

耐え切れず俯(うつむ)く、すずめが

然(そ)うじゃない
然(そ)うじゃない、みや狐(こ)の所為(せい)じゃない

心の中で白狐に伝えた瞬間、涙が溢(あふ)れる

如何(どう)してこんな目に遭うの?
如何(どう)して自分だけ、こんな目に遭うの?

ずっと然(そ)う思ってた
ずっと然(そ)う思ってたけど、然(そ)うじゃない

『目指すは、あの朱い鳥居だ』

自分の足で電車に乗らなかった
自分の足で稲荷神社の朱(あか)い鳥居を潜(くぐ)った

自分の足で「全て」を決めたんだ

然(そ)うして『勝手な真似をした』
然(そ)うして『馬鹿な真似をした』

其(そ)の結果、如何なった?

『着流しの肩山から先』
『露になった白い肌からは鮮血が吹き出し、腕は痙攣していた』

『「如何して助けるんですか?」』

『今だけじゃない』
『一度目も二度目も彼の言う通り、理由が分からない』

『「眼の前で死なれたら困る」』

『味も素っ気もない返答だ』
『其処には思い遣りも気遣いもない』

『唯唯、本心なのだろう』

其(そ)れは「本心」?
其(そ)れは「本心」じゃない?

其(そ)れでも、とすずめは噦(しゃく)り上げる声で謝り続ける

「、御免(ごめん)」
「、御免(ごめん)、なさ い」

「みや、狐(こ)は私を 私を守ってくれ た」
「そんな、そんな大事(だいじ)な事、私、忘れてた あ」

とんだ恩知らずだ、とばかりに白狐に頭を下げて潸潸(さめざめ)と泣き出す
すずめの姿に向かい側の席、散蓮華(ちりれんげ)片手に固まる
くろじ同様、傍(かたわ)らに立つ、はつねも固まっていた

「何が何だが状況が分からない」

そんな思いの二人を余所(よそ)に白狐は項垂(うなだ)れる、すずめの頭を撫(な)でる
上下に揺れる肩が、か細い泣き声が一瞬、止(や)む

はつねにされて悪い気はしなかった
多分、すずめも然(そ)うだろう?と、白狐は撫(な)でながら答える

「すずめは哀しかったのだから仕方がない」

然(そ)う無邪気に笑う、白狐の顔を見詰める
『翡翠色の眼を深く覗けば、透ける眼の奥に映り込む自分の目と合う』

今も哀しい
今も哀しいが

『此の狐は』
『何処へ逃げたとしても』
『何処へでも追い掛けて来るのだろう』

『なら、終わりにするのがいいんだ』

思っていた
思っていたのに

『此の狐は』
『何処へ逃げたとしても』
『何処へでも追い掛けて来るのだろう』

今は其(そ)れを望んでいる

「、みや狐(こ)の」

矢張(やは)り如何(どう)にも涙で詰(つ)まる
自分の言葉を待つ白狐の首元に到頭(とうとう)、すずめは抱き付く

伊達(だて)眼鏡越し、眼を見開いたのをはつねは見逃さなかった

「、みや狐(こ)の」

「側にいる」とは言えない
「側にいる」のは自分の役目ではないと分かっている

其れでも『「お前は俺の巫女だ」』と、みや狐(こ)が言い続けてくれるのなら

「全て」が終わる時迄
「全て」が終わる其(そ)の時迄、みや狐(こ)の「側」にいさせて欲しい

案外、思いの丈が溢(あふ)れる
すずめの心の声に戸惑うも眼を伏せる、白狐が微かに頷(うなず)いた

其(そ)れは伝わったのか、否(いな)か
だが、言いたい事を言い切ったすずめの「感情」は落ち着いた様子だった

然(そ)うして照れ隠しなのか
すずめは白狐の首元に抱き付く、自分の腕を大袈裟に解(ほど)いた

白狐は白狐で控えめに咳払いをした後
飽(あ)く迄、平静を装(よそお)いながらズレた伊達(だて)眼鏡を掛け直す

何ともぎこちないすずめと白狐の見比べる、くろじが
散蓮華(ちりれんげ)を口元に当てて「恋人同士じゃねえの?」と、はつねに耳打ちしたが
はつねの答えは両手の平を上に向けて、肩を竦(すく)めた「モノ」だった

作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫