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バレずに済めばいことだもの

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画面がスタジオに戻る。女子アナウンサーが言った。
「これは、あまりに非常識で、現実とはとても思えないのですが……結婚って女性にとってはとても重要な問題じゃないですか。それをこのような形でメチャメチャにするなんて、わたしもひとりの女として許せませんね」

   *

うるせえ! 女は黙ってろ!

   *

解説者のコメント。
「いやまったく、無責任もここまでいくとあきれて言葉もないと言うか、大人とか社会人とかいう以前の問題で、ちょっと信じられないのですが、しかし頻繁にいま起きているんですね」

   *

そうなんだ! とても信じられないけど、明日が結婚式なんだ! どうすればいい? 一体なんでこんなことになったんだろう?

   *

「○市の男の場合では、もともと最初に、自分は医者だと偽って女性に近づいたようなんですね。なんでも『医学の勉強中でお金がない。デート代は全部キミに出してもらわなきゃならない』などと言って彼女にたかり続けていて、逃げるに逃げられなくなった。本当のことが言えないままに、式場まで手配することになったわけです。女性を刺して逃げた後、自殺の名所と呼ばれる崖で飛び降りられずにいるところを、付近の人に保護されたとか……逃げるなら逃げるでせめて刺さずに逃げてはどうかと考えてしまうんですが」

   *

何を言うんだ。それができないから刺したんじゃないか。その気持ちをわかってやれよ!

   *

「しかしそれって結婚詐欺になりませんか」

「はいもちろん、その罪にも問われることになったようです……けれど、こういう男自体は、かなり多いと思うんですよ。普通は騙した男より騙された女の方が悪いという話になってしまって警察沙汰にならないだけで」

「ならばどうしてこのような事件となったわけでしょう」

「ですからそれが困った話なんですが、彼女にバレそうになったところで式場を予約するんですね。まさかそこまでしておいて、嘘だと思わないでしょう。彼女はここで安心して、『もう大丈夫だ』と思ってしまう。その喜ぶ顔を見て、男はむしろ相手にいいことしてる気になるんです。『これが全部嘘と知ったら彼女は傷つく。それはかわいそうだからオレはこうして騙し続けねばならないんだ』などと都合のいいように考えさえするわけです」

   *

そうそう、それだよ。おれも彼女の幸せを壊したくないだけだったんだ。それの何が悪いんだよ。

   *

「しかしいずれ破局が来るとわかりそうなものでしょう」

「そう思うんですがねえ。しかしこういう男というのは、そこがダメなのかもしれません」

   *

うーん、まったく、いつかなんとかなると思っていたんだけれど、なんでこうなっちゃったんだろう。おれはなんにも間違ったことはしてないつもりなんだけど。

   *

「わかっていたら最初から、浮気なんかしないんじゃあないですか。その日その日でとにかくその場を切り抜ける。それしか頭にないものだから、まずい方へまずい方へ追い詰められていくわけです。わかっていてもどうしようもないという」

   *

そうそう。それだよ。どうしようもなかったんだ。別におれは悪くない。

   *

「で、結局ドタン場で、逃げたり相手を殺そうとしたりといった行動に出るわけですね。未熟とか幼稚といった限度を超えて、救いようがないんじゃないかと……妻子ある身で責任のある行動が取れない。やはり今の日本社会に、こうした人間を生み出す要因があるのじゃないかと思いますが……そう、現代では〈愛〉という言葉が安売りされていますよね。刹那的な行動に美があるみたいな風潮がある。ドラマの不倫ものなんかが、純愛作と呼ばれたりとか……文芸ロマンなどとして持て囃されてしまうでしょう。それを真に受けてしまう人間が、増えているということじゃないかと」

   *

なんだよ。しょうがないじゃないかよ。妻子がいたらもう恋しちゃいけないのかよ。

   *

「普通であれば恋愛で人は成長するわけですよ。それが今では、〈出来ちゃった結婚〉のようなのがまかり通っている。で、簡単に離婚する。これは女性の側にも問題なしと言えないのですが、お見合いパーティなどで出会って、肩書きだけで選んだりする。学歴なんか偽るのは簡単なのに疑いもしない……だから詐欺にもひっかかってしまうんですね」

まったくだ。オレの方が詐欺に遭ったみたいなもんだ。オレの方がむしろ被害者なんじゃないかな。悪気があってしたことじゃないのに、これで人生おしまいなんて、こんなの不公平だろう。

そうだ、全部、あの女が悪いんだ。あんな女は殺したって文句なんか言えないはずだ。

そうだ、殺そう。殺してしまおう。やるならもう今日しかない――。

きみはそう考えた。今このときにこんな放送をオレが見ることになったのは、神の導きによるものだ。あの女を神が殺せと言ってるんだ。それですべてがうまくいく。きれいさっぱり解決だ。神様、どうもありがとう!

   *

「しかしそれで殺すというのは、あまりにやることがムチャクチャですよね。捕まるに決まってるじゃないですか」

「自分の名前で式場の予約もしてるんですからねえ。けれどもそれが、元々なんにも考えてない人間だから、まったく気づかないんでしょうね。銀行強盗や誘拐も、やるのは大抵計画性のない人間ですよ。返すことを考えずにお金を借りて、借金が凄い額になっちゃって、『こうなったら銀行でもやるしかない』とか――で、必ず言うんです、『うまくやれば、絶対捕まるはずがないと思ってた』と。『失敗なんかするわけない』と本気で考えるんですね」

   *

きみにはもう、テレビの声など聞こえてなかった。さっきからカタカタ震えてしょうがなかった手に掴んでいたグラス。中の酒を一気に呷る。

今夜はもうずいぶんな量を飲んでいた。立ち上がると足がちょっとフラついた。

赤ん坊を抱いてた妻が、きみのようすを見て言った。

「どうかした?」

「ちょっと出てくる」

「今から? ねえ、クルマ運転しないわよね」

「大丈夫だよ」

言いながらキーを取り上げた。これくらいの酒なんでもない。明日になったらもうすべては手遅れなんだ。何がなんでも、今夜のうちにカタをつけてしまわなきゃいけない。

大丈夫だ。うまくやれば、絶対捕まるはずがないさ!