バレずに済めばいことだもの
01
邪魔者は殺せ、今すぐに! 殺してしまえばわからないぞ!
きみは女を殺すことを決意した。
それはテレビのニュース番組を見ていたときだ。キャスターが原稿を読んで言ったのだった。
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「今日の特集は、〈新郎が来ない結婚式〉です」
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と。なんだ?ときみは思った。なんだそれは?
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「え?」と女子アナウンサー。「新郎の来ない結婚式? それはどういうことでしょうか」
「映像をご覧ください」
画面が変わって、ナレーターの声。
『幸せなはずの結婚式。ところが近年、当日に、新郎が式場に現れない例が続出しているという。関係者の証言によると――』
音声に加工がされたキイキイ声で、
『結婚式の司会を十年やっていますが、あんなことは初めてでした。挙式当日、会場に行くと、スタッフが慌てふためいていたんです。どうしたのかと聞いたところ、新婦側の来賓はみんな揃っているのに、新郎側はひとりも来てないと言うんですね。新郎本人はもちろん、親も友人も誰も彼もです。招待状は送ってあって、〈出席〉の返事もちゃんとあるんだそうですが。新郎に電話しても捕まらない。新婦はもう半狂乱です。やっと実家の電話番号がわかりまして、掛けてみるとなんと母親が出たそうです。スタッフが「今日はあなたの息子さんの結婚式ではないですか」と言ったところ、その母親の返事というのが、「ハア? 何を言ってるんです? ウチの息子はもうとっくに結婚して子供もいますよ」と――』
ナレーターが、
『なんと、新郎には妻子があった! 独身と偽って女性と浮気し、結婚をエサに関係を続けていたのである! 本当のことを言えないままに婚約し、式の予約までしていたのだ。後先考えぬあきれた行動。招待状も出して返事が来たように見せかけていた。式当日はなんと普通に勤めに出て、仕事をしていたという。一体何を考えていたのか――』
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やっぱり! まさに今きみが、やっていることそのまんまだ!
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『結局、この男には、厳しい社会的制裁が加えられることになった。だがこの件ばかりではない。最初に述べたように、近年、これと似た事例が日本各地で多く起こっているという。中には殺人事件にまで発展したものもある――今年○月、○県○市で男が女性を刺した事件があった。×月には×県×市で首を絞めた事件があった。どちらも未遂に終わっているが、殺意は明白。挙式を目前に控えての出来事で、男達は既婚であるのに女性と婚約、事実を言えずに犯行に及んでいたのである。被害に遭った女性達には、今も大きな傷跡が。心の傷も深く残る――』
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きみは思った。どちらも未遂? なんてことだ。成功すれば良かったのに!
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作品名:バレずに済めばいことだもの 作家名:島田信之