プールサイドフィクション
玉川「亡くなった生徒さんの死因ですが窒息死だそうです。二人とも首にロープのような物を巻かれ息ができないようにされたのが直接の原因。しかし肺の中にも多量のプールの水を飲みこんでいた。おそらく、水中でロープのようなもので首を絞められ呼吸ができないように窒息させ、その後、プールの水を飲まされている。」
聞いている笹森、思い出したように
笹森「防犯カメラには何か映っていませんでしたか」
玉川「映っていなかった、というより、最初から電源が入っていなかったようですよ」
蝶野、黙って聞いている。
玉川「ところで、亡くなったお二人の関係は」
笹森と長沼が顔を見合わせる。
長沼「仲のよいお友達同士と聞いておりますが」
笹森、頷いている。
蝶野「(長沼をじっとみて)校長室に入る前に、先ほど生徒たちにも同じことを聞きました。
いつもは三人でグループ行動をしているとか」
長沼と笹森、顔を見合わす。
蝶野「もっと砕けていいますと、三人はいじめグループの連中でいつもつるんでいたとか。
…今日はその生徒さんは登校していますか。いたら話をききたいのですが。」
長沼「いじめグループだなんてとんでもない。彼は、昨日は始業式ですが登校していませんでした。今日は?」
長沼、笹森を見る。
笹森「今日も欠席なんです」
蝶野「おうちの方には電話されましたか」
笹森「あのご家庭の方はいつも家にはいないんですよ。お忙しい方々で」
蝶野「親御さんは何をしている方?」
笹森「お父様の方は市議会議員の方でして、奥様はたしか美容アドバイザーで全国を駆け
周っているとか。とにかくお忙しくてお偉い方々なんです」
蝶野「ほう、有名な方なんですな」
笹森「そ、そうです、ねぇ」
蝶野「子供さんは何人かご存じ?」
笹森「男のお子さんが二人で弟さんが今、小学校六年生とか伺っていますが」
玉川「その方のお名前と住所を教えていただけませんか」
笹森「名前は東頭。東の頭と書きます。住所は…」
笹森、手帳に書き留める。
〇 東頭家 夕刻
立派な門構えの東頭家正門
門扉に夕陽が差し込んでいる。
蝶野と玉川が門扉前に佇んでいる。
玉川、TVモニター付きのインターホンを押す。
インターホン、TVモニターに東頭千也(12歳)の顔が映る。
玉川、警察手帳をモニターに映るように見せる。
玉川「おじさんたちは刑事なんだけど、少しあって話を聞かせてくれるかい。」
千也の画像「いいですよ」
門扉の鍵がガチャリとし、門扉の柵が少し開く。
玉川と蝶野、中に入る
〇 東頭家 応接室
広い応接室。ガラステーブルをはさんで立派なソファがある。
ガラステーブルの上に食べかけのカップラーメンがある。
千也「どうぞ」
千也、二人の刑事をソファに誘う。
ソファに腰を降ろした、玉川、食べかけのカップラーメンを見る。
玉川「きみは夕ご飯たべたの」
千也、座りながら
千也「さっきまでカップラーメンを食べていました。これです」
玉川「ご両親はまだ帰宅していないのかな」
千也「パパは会議会議で忙しくて帰って来ないんだ。(ニヤリと嗤い)というのは表向きで本当は愛人を囲って、仕事半分、愛人宅半分ってママが言っていた」
玉川「お母さまはご主人に理解があるんだね。そう言っているお母様は」
千也「美容関係の仕事をしていて、あちこちの会場で講習をしているようです」
玉川「いるようです、って?」
千也「パパが言うには全国に若いつばめ、がいて本当はどこにいるかわからないんだって。いつも電話しても繋がらないし、ある日突然、帰ってきたりするから。もう慣れたけど。だからどっちもどっちさ」
玉川「お兄さんがいるって聞いたけど」
千也「ああ、兄貴ね。この間パパに怒鳴られて、それきり帰ってきてないよ」
先ほどまで黙ってメモをとっていた蝶野が口を開いた。
蝶野「それはいつ」
千也「昨日、否、二、三日前かな」
蝶野と玉川、顔を見合わせる。
玉川「何故、お父様に怒鳴られたの」
千也「金庫からパパのお金を盗んだ。たぶん10万くらい」
玉川「帰って来ないって、捜索願とか出したの」
千也「全然。いつも友達のところに寝泊まりして突然かえってくるから。そのうちかえって来ると思うよ」
聞いている玉川と蝶野。
玉川「帰ってたらおじさん達に連絡くれるかい。それと、お母様とお父様の電話番号も教えて欲しい」
千也が近くにあった紙を掴んで電話番号を書いている。
突然、蝶野のスマホが鳴る。
耳に充てる蝶野。
驚愕の表情の蝶野。蝶野、スマホをポケットにしまい込む。
玉川、蝶野の顔を伺う
蝶野「おととい、病院に搬入された患者が亡くなった。所持品の中にあった生徒手帳から亡くなった患者身元が割れた。」
玉川、蝶野を見る。
蝶野、千也を見る、千也も振り向く。
蝶野「東頭力也、君のお兄さんだ。お父さん、お母さんに至急電話して病院の霊安室に向かうように連絡してください。電話が通じるまで何度でも電話するんだ」
千也、呆然としている。
〇 百目鬼印刷所 工場
百目鬼、扉を開けて中に入る
〇 百目鬼印刷所 工場内
工場内は印刷機器の回転する音で騒々しい。
百目鬼、入り口付近にいた従業員に声を掛ける。
しばらくすると寺西と我孫子が来る。
寺西、百目鬼に百万円入っている封筒を渡す。
百目鬼、少し睨み、こっちへ、という風に手招きする。
寺西「ぼっちゃん、どうしました」
百目鬼「匕首で殺したのか」
寺西「まさか、坊ちゃんの指示通り、百万円を取り戻した後、こいつと二人で軽く痛めつけただけですよ。歯の一本くらいは折れたかも」
百目鬼「刃物は使用していないんだな」
寺西「もちろんですよ。やくざじゃあるまいし、刃物もって街を歩いていたら警察に捕ま りますよ」
百目鬼「ということは、あいつのとどめを刺した人間が別にいるということだな。誰だろ う。」
百目鬼、宙を睨む。
〇 中学校 屋上プール
プール内の水が徐々に少なくなっていく。
プールサイドには数人の鑑識課の職員と蝶野、玉川がいる。
空になったプール内に鑑識課の職員が降りていく。
鑑識課、プールにの底辺をこまなく探している。
排水溝の近くに来た鑑識課の職員、底にしゃがみ込む。
職員、手を伸ばして塊を摘まみこむ。
10cm程のビニールロープ。
職員見ている。
職員「何か肉片が付着しているな」
〇 警察 鑑識課
鑑識課の職員、顕微鏡で見ている。
鑑識課の職員、ビーカーに肉の片割を入れる。ビーカーの中で変色していく様子をみて、
鑑識課の職員「これが凶器の一部だな。被害者の肉片とロープには特殊なインクが付着している」
鑑識課の職員、10cmほどのビニールロープを掴む。
〇 百目鬼印刷所 工場 入口
パトカーが止まり、蝶野と玉川がおりる。
〇 百目鬼印刷所 工場
引き戸を開けて入ってくる蝶野と玉川。
作品名:プールサイドフィクション 作家名:根岸 郁男