第四話 くらしの中で
その三
私は途切れることなく何かに支えられ生きてきた。
様々な支えの中には、容赦ない義務そのものが支えとなっていた時期もあった。
容赦ない支えとは次々に介護すべき者に支配されていた頃のことだ。いつなんどき襲われるか分からない修羅場に身構えをしていると、自分が自分を支える力が湧いてくるものだ。そうゆう時期は中年のほとんどを占めるほど長い長い年月だったように思う。
ふしぎなことにその間は身体が弱ることもなく、頭が壊れることもなく、よく生きて来られたものだと、今にして思えば感心さえしている。
それらの状況すべてが終止符を打ち、気が付いたとき私は竜宮から帰還した浦島太郎の逆バージョンのごとく静かな孤独の中に取り残されていた。
浦島太郎の髪が真っ白になったのと同様に、多分私の地毛は真っ白だろうが外見では栗毛色で若く見える。
海に山に孤独を連れて車を走らせる。心が騒ぐことはなく長閑だ。意識こそしないが改めて思い出してみるとなんという変わりようだろう。
作品名:第四話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子