第四話 くらしの中で
その8
相棒が脳梗塞で倒れ入院したとき、東京在住と東北在住の娘達が心配して駆け付けた。二人でわいわい言いながら千羽鶴を折って一晩で折り上げ、病院のベッド脇に吊るした。
後二年の寿命だろうと私を含めてそれぞれが思っていた。
「おかあさん 独りになったら犬を飼ったら?」
「パソコンをしたら寂しくないよ」
などと勧めてくれ、そのことはどちらも実現した。
三人で、知人が拾ったという子犬をもらいに行き、エプロンにくるんで帰った。
子犬はトラジ―と名付けられ、その後亡くなった家族の誰よりも長く17年間私に寄り添って生きた。
パソコンは近所の電気屋のチラシに10万円と出ていたモノを買った。
私はそもそもパソコンという存在さえ知らなかったが、娘の一人が「特打ち」というソフトを買いに連れて行ってくれた。「特打ち」というのは外国のお爺さんの声で楽しく誘導されてブラインドタッチが練習できるソフトだ。
最初はなかなかできなかったが、一ヵ月ほど毎日練習している内に少しずつキーを見ないで打てるようになった。その時点で近所のコンピューター学院という所でメールを書いて送る手順を習った。
もう一人の娘が、メールマガジンを見る?というので、本屋に買いに行くの?と言うほど私は無知だった。
「メールマガジンはパソコンの中で観ることができるのよ」と言われびっくりした。
当時はメーリングリストというのもあって、今で言うSNSみたいなもの。
私は色々なメーリングリストに登録して書き込みをするようになった。
パソコンという箱の中からは人からのテキストの応答が返って来るのでとても楽しかった。
その上書くことによってキーを打つ手捌きがどんどん巧くなっていることもうれしかった。
作品名:第四話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子