第四話 くらしの中で
その6
子供たちがそろそろ自立しかけたころ、相棒は定年を迎えようとしていた。
その何年か前から眩暈がすると言い、職場では身体が揺れている間は何かにもたれてじっとしていると治ると言っていた。
娘が帰省したとき、三人で高知へドライブに行ったことがあった。
運転をしていて暫く経って眩暈がすると言うので娘が代わって運転した。
高知は隣の県ではあるが桂浜まではかなりの距離だ。桂浜では竜馬の銅像を見たり、珊瑚売り場で珊瑚のネックレスを買った。小粒で所々に欠けた珠も入っているので一万円という安い値段だった。
今でも手元にあるそのネックレスを見る度に、三人で高知へ行ったなあと感慨深く思い出す。
眩暈を治す為にダイエットのつもりで夜の散歩をするようになった。食事制限も正しい知識の無いやり方でしていたようだが、私は何もアドバイスはできず、亦もし何か忠告をしたとしても耳を傾ける相手ではなかった。
或る晩山道をウォーキングしての途中何があったのかわからないが、顔など血もぶれで帰って来た。喧嘩でもしたのか、転んだのか、私も不審には思いながらその後何事もなかったのでそのまま日が過ぎた。
作品名:第四話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子