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第四話 くらしの中で

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その2


自分の基礎的知識を一応習得し終えると、次は自分の子孫を作りたい気持ちが湧くものだ。これはあくまで個人的な願望である故、それ以外の願望を抱く人のことは論外である。

三十歳で子孫を産むというのは年齢的に遅いが、自分には仕方のないことであった。前章で書いた通り、思春期の病気が長引いて人並みの出発が出遅れたからだ。

三十にやっと子孫がつくれることになり、それ以後はその育成に邁進することと相成った。とはいえ生活の為には子孫育成以外に、働かなければならない。
私が働ける手段といえば、幼い時期から習得してきたピアノを教えて収入を得ることだった。これは宣伝したわけでもなかったが、近辺には私が大学を卒業して帰ると同時に子供を寄こす親が幾人かいたのだ。

芸は身を助けるとはよく言ったものだ。
ピアノを習いにくる子供達は主に小学生だったが、その伝手で大学で専攻した英語を習いに来る中学生も集まって来た。あれよあれよという間にピアノの弟子と英語の生徒の数が満杯になり、英語のほうは人数を制限することになる。


私の背後には産み育ててくれた母親がついていて、まだ医療機関へ勤務していたものだから月給は人並み以上にあったようだ。
とはいうものの、私は母親から生活費をもらっていたわけではないが。

生活費の主なるものは、真面目に勤務する相棒の月給で賄われた。
その相棒たるや、あまりにも真面目なるが故に月給を袋ごと渡す以外に、時間外手当というのが出るとそれもすべて渡してきた。
それに子供にはまだそれほどの費用はかからなかったので収入の一部は預金というかたちで保管されたのである。


作品名:第四話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子