第四話 くらしの中で
人生は短い その一
五十歳までの自分の生活を思い出してみると、それ以後現在までの生活と全く違っていわゆるリアルの中で生きていたように思う。
子供から思春期を通り抜け、20歳あたりからそろそろ大人になりかけて化粧もしたり大人の異性にも眼を向けたり、またそれが叶わなかったら悲しみを味わったり。
病気がちではあったが三十歳までの私はなんらかの学校に所属していた。
健康を取り戻した二十代の初めに母親の元を離れて四年間大学にも通った。母親と一緒に住み地元の学校へ通っていた時は学校とはいえ気楽なもので、まだ母親の保護の元自分の意思とは関係のない流れに沿って暮らした。
家を離れて見知らぬ土地の大学で勉強するということは、勉強は好きで抵抗はなかったが、人間関係で失敗したことも多く年下の友達に振り回された感がある。
でもその四年間がなかったら私は元のままのお嬢ちゃんでオトナになっていただろう。まだ身体が健康ではなかったので休講することもあったが、あの頃経験した誇らしいこと、辛い事はその後再び味わえない若い世代の思い出として大事に胸にしまっている。
あの時代にすれ違った友達とは今は誰ともつきあっていない。もともと志望の学校ではなく、音大を休学したまま期限が切れて退学を余儀なくされ、数年経って入学した大学だった。もし十八歳で順調に音大に通学し卒業できていたら今の人生とは違ったものになっていたように思う。
そのほうが良かったかどうかは神のみぞ知るところだが。
大人として歩き始めるはたち前から20代の数年間はもっとも輝いているはず、
亦そのようにあらねばならないのだ。
作品名:第四話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子