第四話 くらしの中で
その二
ついこの間まで裏切られたというトラウマがあって、なるべく家に行くまいと決めていた女性に対して、かくも閉じ込められた状況になると、その人を有難く思う感情のほうが勝って来た。
私の住まい周辺はそれぞれの屋敷のガードが固く、こちらに越してもう三十余年になるというのに私的に開放している家がほとんどない。顔を合わせれば軽い挨拶はするがそれ以上の関わりを持たない家々に囲まれて暮らしている。
まるで都会の有名人や富裕層の住む邸宅の町並みのようだが、ガードする塀があるというだけで住人はみんなどんぐりの背比べなのだ。
そういう私の家も人待ち顔の独居暮らしなのに外から見れば気安くは入れないと言われる。敷地が広く駐車場の門扉や木の門もそのような印象を与えているらしい。
作品名:第四話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子