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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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六人の住人【完結】

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「時子さんは、そのような人だってことですよ。攻撃されたとか、痛めつけられたからって、愛する事をやめないんでしょう」

俺はちょっと信じがたかったが、確かにこの子は今まで、そういう「潔白さ」を守ったまま行動してきた。

「愛する人を理解しようと頑張った。どうして今が辛いのかと言うと…」

そこでカウンセラーは、そばにあった玩具を手に取った。それは、球状に広がるように編んだものだ。それを広げてみせ、その中に小さなマトリョーシカを入れた。

「傷つけられたからこうして殻に閉じこもっていて、その中に、「母から愛されなかった」という記憶を受け入れてしまったんです。殻の中に、愛されなかった辛さを取り込んでしまった」

俺はそれを聞いてぞっとして、思わず叫ぶ。

「…それじゃ、まるで地獄の檻じゃないですか!」

「そうです。だから辛いんです」

カウンセラーはマトリョーシカ達を元に戻して玩具をしまってから、もう一度話し出す。

「愛されなかったけど、愛そうとしたんです。すごく愛情深い人なんです」

俺は、それをただ肯定する事は出来なかった。

だって俺は、何かのためにこの子が身を捨てて傷つく姿なんか見たくない。でも。

「どうかしら。「愛そうとした事に「そうなんですね」と言ってあげる」というのは、時子さんはどう思うかしら」

そこで、ハッとした。

もし、母への愛を認めていいのだと言われたら、時子はそれを喜んで歓迎するし、嬉しいと感じるだろう。

今まで俺や、自分の夫や父親、親戚、過去のカウンセラーなどから、時子はずっと、「お母さんの事は忘れなさい」とか、「少しは恨んでもいいんじゃないですか」などとばかり言われてきたけど、それでも愛を捨てなかった。

きっと、喜ぶだろう。


「どうでしょう…分かりませんが、多分、泣くんじゃないでしょうか。「嬉しい」と言って」






カウンセリングが終わってから、俺はメッセージとして、ツイッターのツイートで、その日のカウンセリングの内容を書き残した。

それを読んだこの子は大興奮して、号泣しながら叫んだ。

「良かった!今まで「忘れなさい」って言われるばっかで、怖かった!お母さんのこと、好きなままでいいんだ!」

時子はただ、とても嬉しそうに泣いた。




作品名:六人の住人【完結】 作家名:桐生甘太郎