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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

INDEX|95ページ/119ページ|

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ターカスは記憶を取り戻すと、、軍司令部から“エリック”に連れられてオールドマン邸に行った事、オールドマンが喋った台詞を一言一句過たずに話し、やがて博士はその記憶にもう一度“上書き”を施した。

私達は初めて、オールドマン邸での、確信の持てる情報を得た。本人から聞くまでは、「おそらくそうだろう」くらいでしかなかったのだから。しかし、博士はその事を喜んでいなかった。

「困ったものじゃな、オールドマンの僻み根性にも。奴はそれで成り上がれたには違いないが…」

「はあ…」

私達は、また博士のキッチンでお茶を飲んでいた。博士は俯いて、お茶から湯気の上るのを見詰める。

「オールドマンはな、元はこの、メキシコ自治区出身の科学者じゃ。儂ら、フォーミュリア、オールドマン、バチスタは、首都メキシコシティにある、最先端を学ぶアカデミーの出身じゃった」

「そう、だったのですか…」

私は大いに驚いたが、博士は思い出の中から目を離さず下を向いたまま、「ああ」と頷いた。

「儂らは日夜、切磋琢磨して研究をし、儂は妙な物に興味を持ちやすいのでな、いつも赤点を付けられておった。でも、そんな儂と友達になってくれたのが、ダガーリア君だったんじゃ」

私は、どんな者も優しく見詰める、前御当主のお顔を思い出す。

「でも…そんな儂らを、いや、ダガーリア・フォーミュリアという男の好成績を妬んで、いつも後ろを追いかけていたのが、オールドマンじゃよ…」

私はあまり口を挟まず、ターカスも黙っていた。イズミは初めてこの話を聴いたように驚いていた。彼は博士の後ろに立ち、やっと聴けた博士の思い出話を喜んでいるように見えた。

「オールドマンは、首席での卒業をしたダガーリア君をまたもや妬み、別の企業で研究者として働く時にも、時折、ダガーリア君の思想を非難していた…そして、いつしか成り上がって、穀物メジャーの研究者となった…それはもちろん、潤沢な資金を使うためじゃ。今や穀物メジャー以上に金の余っている所など、ないからな」

そう言うと、博士は顔を上げ、私達をぎりっと睨みつける。

「いいか、諸君。奴の企みがなんであっても、それは阻止しなければならん。「平和利用に限ろう」なんて倫理観は奴にはない!それに、戦場から戦術ロボットを拉致しようとするんじゃ。ろくな事は考えとらんだろう」

私達の間に緊迫した空気が流れた。だけど、博士は私達の事は放ってすぐに立ち上がる。

「儂はアメリカに行くぞ!今日にも、政府に話を通す!ポリスに護衛を依頼じゃ!忙しくなるわい!」

博士は、言葉の終わりにはもう、自宅のコール端末からポリスの番号を引き当てたのだろう。通信の音が聴こえてきた。


“はい。こちらはポリスコールセンターです。事件ですか?事故ですか?”

博士は天井に向かって、大声で叫んだ。

「コールトリプルエー!署名はラロ・バチスタじゃ!人員をかき集めろ!」

私にはその言葉の意味は分からなかったが、応対AIは「承知致しました。お待ち下さい」と言った。しばらくして、懐かしい声が聴こえてくる。

通信の向こうから、無機的で、平坦な少年の声がした。

“こちら、情報人員、AH-003、コードネーム“シルバ”です。バチスタ博士、お久しぶりです。ご用件を伺います”

私は、思わぬ所で思わぬ人物の声を聴いたので、驚きと喜びを覚えたが、ターカスは落ち着いて博士とシルバの会話を聴いていた。博士は相変わらず、天井へ向かって金切り声を上げる。

「君は知っているかね!我が国の戦術ロボットGR-80001が、アメリカの穀物メジャー、DDMへと拉致された際、その主要たる機能を奪われた!これは由々しき事態なんじゃよ!」

“博士、説明を求めます。それは、どのような機能でしょうか。こちらで確認しましたが、そのロボットは、もはや他国の最新鋭ロボットには、どのような面でも敵いません”

「ああ、わかった、わかった!白状するよ!」

私はその時、“ついにターカスの事が明るみに出てしまう”と、事を恐れた。博士は迷わなかった。

「ターカスには、人間の脳細胞を利用して、自発的な自我を連続して保つために、あるパーツが取り付けられている!儂を罰するのは構わんが、相手方がそれをどう悪用したのか、判別が出来なくなるぞ!」

“…承知しました。では、博士、対抗策はどうなさいますか”

「アメリカへ行く!物理的にパーツを取り戻し、もし悪用されていれば、それらを全てすべて廃棄だ!」

“…分かりました。では、出立の準備は、ポリス次長と、政府高官からの承認が下りてからです。それが済み次第、関係者を集め、チームを編成します。連絡は15分後です”


通信が済むと、博士は私達を振り返り、「そういう事で」と喋り始めた。

「君を元に戻せるのは、もっと後じゃが、我々はこれからアメリカへ行ってくる。必ず君は元に戻る。安心する事じゃ」

そう言ってターカスを見詰め、博士はにっこりと笑った。