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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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私は、もう一度家にロペス中将を迎えておもてなしし、驚くべき事実を聴いた。

その時、中将は「ターカスは席を外してもらってくれ」と言っていて、もちろんターカスは居なかった。私と、中将だけで話をしていた。


「では…うちに居るターカスは、偽物なんですか?」

恐る恐るそう聞くと、中将は残念そうに項垂れる。

「そうかもしれない、というだけだ」

「そんな…」

私がどうすればいいのか分からなくなってしまうと、中将は慌ててこう言う。

「ただ、それは俺があの時、オールドマンの屋敷で、型番の同じロボットを見た、というだけだ。ターカスの豹変については、まだ原因は分からない」

「そ、そうですね…でも、そうだとすると…一体どうすればターカスを元に戻せるのか…」

「フーム…ホーミュリア家はロボット工学の権威だろう。知り合いに、ロボット学者は居ないのか?」

そう言われてその事に気づいたけれど、この家に来てまだ日も浅い私は、それらの人々とは、御当主の葬儀の時に会った切りだ。今では、この家をそういった目的で訪ねる人も少ない。

「いくらかはいらっしゃるとは思いますが…私で、お取次ぎ出来ますものでしょうか…」

すると、中将はまた葉巻に火を点け、ぷかっと煙を吐く。

「やらなきゃならんだろう。令嬢はまだ塞ぎ込んでるのか?」

「ええ…」

私は、庭の兎小屋でコーネリアと遊ぶ事を支えに、独りの時に耐えているお嬢様を思った。

“お嬢様のため、ターカスを元に戻さなければ”

私はそう一念発起し、ロペス中将にお礼を言う。

「中将、ご報告を有難うございます。私は、現在のターカスを元に戻す方法があるか、聞いて回ってみようと思います」

「いやいや。俺も、所属していたロボットが急変したなんて、気持ちが悪いからな。解決とはいかないまでも、少し様子が分かってよかったよ」

その時私は、やっとロペス中将が体験した出来事の話を思い出した。

「そうです、中将。足の傷は、痛まないのですか?」

「ああ、これか?もうなんともないぜ」

そう言って中将は軍服をたくし上げ、ソックスを下ろしてみせる。いつも分厚い軍服に包まれているからか、想像より白い肌には、本当になんの痕もなかった。でも、僅かに線が一本残っていた。私はそれを見て、奇妙な気分になった。

“どこかで見たような…”

だけど、いつまでも傷痕を晒させているのは失礼と思い、話を先に進めた。

「すみません、そんな危険な目に遭わせてしまいまして…お命が無事で何よりです」

そう言って、私は頭を下げる。

「大丈夫さ。じゃあ、“ターカス”は一度誰かに診てもらって、俺は気になる事があるから、そっちを調べる事にするよ」

「ええ…」

中将は軍服を元に戻し、少し付いていたのだろう泥汚れを、軍靴から払った。

「結局、オールドマンが何を考えているのか、何のために“ターカス”と同じようなロボットを所有していたのかが分からなければ、自国の損失に繋がる可能性もある」

「そうですね…」



前の時と同じく、ロペス中将は、話が終わったらすぐに帰って行ってしまった。私は家にあった名簿を取り出すため、壁に埋め込まれた通信端末を開く。

壁の一部がぽわりと白く光り、そこへ、オレンジ色の文字が浮かび表れるのを、一人一人、私は指で送った。

“どの方も、頼りになりそうだ…順番にメッセージを送ろう”


私がその晩、ホーミュリア家のアドレス帳にあった、親しかったロボット工学者の方達にメッセージを送ると、休もうとしていた時分に、テレフォンのコール音が鳴った。

「えっ…!?」

それは、もうPM11時を過ぎていた。常識的に考えて、そんな時間にテレフォンなんかしない。それに、現代の人は早寝だ。お嬢様ももう眠っている。

私は、しばらく迷ってから壁に触れて、イヤフォンを耳に掛けた。

「もしもし」

そう言うと、矢継ぎ早に向こうがこう叫んだ。

“大変だ!君、大変な事になったぞ!ターカスが変化するなんて、有り得ん事だ!最悪のシナリオは、我々全員の命にも関わる!すぐにターカスを連れて来い!明日だ!”

「あ、あの、貴方は…?」

私は、とにかく相手にそう聞いた。すると相手の方は、自信満々にこう言い放った。

“儂か!儂こそ“ロボットのお医者さん”、ラロ・バチスタじゃよ!”