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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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眼帯をした彼は、名前を「エリック」と名乗った。亡き主人にそう呼ばれていたと。「型番はΨ-AH56602だよ」と何気なく彼が言った事で、少々古い型なのは分かった。ギリシャが大戦で滅んでしまってから、ギリシャ文字はこの二十年ほど、あまり使われなくなったからだ。


亡き主人の事を話してからのエリックは、部屋の真ん中に座って私達に囲まれ、胡坐をかいたまま俯いていた。

エリックは、私達が今居る場所を、「以前、世界連が持っていた凶悪犯の収容所だ」とも説明してくれた。それから彼は、こう言った。


「お前達にしか頼めないんだ。お前達は、戦闘と諜報のスペシャリストたるロボットだ。もしポリスのトップが世界連にでも話を持って行ったら、俺一人じゃ、絶対に太刀打ち出来ない。それに、兵器として発明されたロボットの内で、世界連が保有している以外に残っていたのは、お前達だけだったよ…」


私の心は、やはり痛んだ。エリックの言う事が正しいのだとしたら、これは、大いなる陰謀によって理不尽に殺された人のための、報復であり、遺された意志の貫徹だ。でも、選ぶ方法によっては、エリックもただの殺人犯となってしまう。だから、言葉を慎重に選んだ方がいいと思った。

「エリック。あなたは、亡きご主人の意志を貫ければよいのですね?それなら、どこかに、その「グスタフ」の息の掛かっていない人物は見つけられなかったのですか?」

エリックは俯いたままで、ゆっくり首を振った。めまいを起こしているように。

「居ないよ…ポリスを直接動かせる権限を持った者は、全員グスタフの手駒みたいだ…俺は、それもおかしいと思ってる…要は、ポリスを動かしているのは、グスタフだって事になる…」

「グスタフがポリスを?グスタフより上の立場の者は居ないのですか?」

「居るよ。でも、全員強い権力は持ってない。グスタフの方が、現場指揮のトップであるがために、即座に権限の行使が出来て、発言力もある…」

私は、彼が話している事を聞いていて、ますますエリックの話を信じる気になった。でも、だとしても、その「グスタフ」を葬るより、その企みを白日の下に晒して彼の罪を裁く方が、正しい道だと思えた。

「エリック。あなたは認めないかもしれませんが、やはりあなたの起こそうとしている事は、非道な行いなのです。そんな事は、あなたの主人も望みません。あなたさえその陰謀の犠牲となるかもしれません。そんな事は、あなたのご主人は許しませんよ」

私がそう言うと、エリックはゆらりと首を上げ、私を睨みつけた。

「…そうだ。これは、俺の意志だ」