メイドロボットターカス
「マリセル。いつまでも泣いていないで、これからする私の質問に答えて下さい。これは捜査官としてのものです」
私たちはまた作戦を練るはずだったが、私はとにかくマリセルの話を聴きたかった。
「は、はい…なんでしょうか…?」
泣き顔を変えないまま、マリセルは私の方を振り向く。
「急にどうしたんだよ、ジャック」
「ターカスの出自についてだ」
「ターカスの…?わたくしは何も知らされておりませんが…」
「どういうことだね、アームストロング君」
私は、居間のテーブルの上にあったダガーリアの日記のうち、5冊目を取り上げて最後のページを開き、マリセルへ向けた。
「嘘をついてもすぐに分かる。この前当主ダガーリアの日記には、“亡き息子ターカスの名と、その魂をプログラミングしたあのロボット”、とあります。おそらくダガーリアが死の前日に書き残したものでしょう」
「そして、ターカスの廃棄を、マリセル、あなたに任せるとも書いている。マリセル、あなたは知っているはずだ。残らず話してもらいましょうか」
「そんな…!わたくしは、つい最近雇われてきただけです!そんなこと、知りようもございません!」
ただうろたえているようにも見えるが、日記に書いてあることが本当なら、「ホーミュリア家を守るためにシラを切っている」とも見えた。
「だが、さっきは「ターカスが雇われてきたのはヘラ嬢の弟君が亡くなった頃だ」と答えることができた。君はターカスのことをよく知っているはずなんだ」
「わたくしはつい先ごろ、ターカスがお嬢様を連れ去ったと確信して、さらにお嬢様が死んだと聞かされたのですよ!そんな根も葉もないことでこれ以上私を苦しめないで頂きたい!」
マリセルはまたおいおい泣き出して、ついにはそう叫んだ。だが私は疑いを捨てなかった。
「それは本当ですか?」
「えっ…?」
「本当にターカスがヘラお嬢様を連れ去ったのですか?私たちは、あなたが持ってきたメモを見ただけです」
「私が勝手にあれをでっち上げたとでも…?」
「あなたは早くターカスを葬りたかった。だが、軍用戦闘ロボットの寝首を搔くのは至難の業だ。そこへ、ターカスを押さえ込めそうな我々がやってきた…」
しばらく場は沈黙していた。マルメラードフ部長は話についてこれていないまま驚いていて、シルバは私が話を始めた時から、仮想ウィンドウをいじっていた。
当のマリセルは驚きと悲しみに打たれた時のように震えていたが、やがてまた叫び出す。
「わたくしが、あなた方を利用してターカスを破壊させようとしたと…!?なんてことです!わたくしはお嬢様の身の安全を考えていただけです!どうしてそんな疑いを掛けられなければいけないのですか!」
「ではマリセル、あなたは本当に何も知らなかったのですか?」
「知りませんよそんなこと!わたくしは今それどころではないんです!もう放っておいてください!」
「そうですか…」
「いいえ、あなたは知っていたはずですよ、マリセルさん」
そう言ったのはシルバだった。彼は多くの仮想ウィンドウのうち1つだけを残して、マリセルの方へとそれを向ける。
「へっ…?」
「ここに、僕が引き出した、このメキシコシティの、ロボット管理局のデータがあります」
「シルバ、君はさっきからずっとウィンドウを動かしていたが…」
シルバは画面に出たものを読み上げる。
「ホーミュリア家メイドロボット「ターカス」廃棄予定10月18日とあります。届出人は、ホーミュリア家メイド長「マリセル」、届出日は9月23日となっている。前当主ダガーリアが亡くなったのは、9月13日です」
「じゃあ、さっき君が言っていたのは…」
そう言ってマルメラードフ部長がマリセルを振り向くと、マリセルは急いでうつむいた。
「これはあなたがこの家に来てから、自分で届けたものです。メイド長とされるロボットにだけ許された権限を使って…」
シルバはそう言ってから、ウィンドウを閉じた。私は改めてマリセルに向き直る。
彼は怯えた様子はなく、だが、さっきよりよっぽど落ち込んでいるように見えた。
「マリセル…話してもらいましょうか」
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎