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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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「ターカス!遊びましょうよ!ターカス!どこにいるの?」

私は自分の屋敷の中で、一番のお気に入りのメイドロボットのところまで歩いていくために、頑張って歩行器を使って進んでいた。私は生まれつき少し足が不自由だったから、半自動車輪付きの歩行器を使って、屋敷の中を歩き回っている。今の屋敷も、亡き父が私のために建てた、段差のほとんどない建物で、もちろん二階へはエレベーターを使って上がる。これはどの家でも大差ないけど。

でも私はターカスを見つけられなくて困っていたので、他のメイドロボットに聞いて回った。

「お嬢様、お部屋にお戻りになってください。そのままではお疲れになってしまいます。ターカスなら、わたくしが連れてまいりましょう」

最後に声を掛けたメイド長はそう言って、ワイシャツにベスト、スラックスの姿で、きっちり腰を曲げておじぎをする。でも、この間まではターカスがメイド長だったのに。

私は、メイド長に会った庭にあつらえられたベンチに座り込み、物思いに沈んだ。

“もう旧式だからと、以前に買われてきたロボットたちはみんな雑用係に回してしまって、新しい型のを急にメイドにするなんて…”

私は、薔薇の咲き誇る庭の中で、歩行器は隣に置き、部屋には戻りたくなかったので、そのままターカスを待っていた。

今は午後の稽古事の時間だったけど、私は部屋に戻る気分じゃなかった。

“どこかに行きたい”

ずっとそんな気がしている。屋敷での毎日は単調だし、この屋敷には私以外にはロボットしか居ない。それでつまらないなんていうことはなかったけど、それはターカスが私の部屋を去ってしまう前までだった。

お父様はつい先日亡くなって、葬儀にはたくさんの公人も来たけど、私はそれにはろくに応じることも出来ずに、後見人である叔母さんに頼ってばかりだった。

お母様は、もうずいぶん前に亡くなっている。お父様は元々、ロボット設計と製造の仕事でほとんど家に居なかった。足が上手く動かなかった私は、いつも家で誰かを待っているばかり。


お父様は、亡くなられる前に、「せめて私が娘を愛していたということを残せるように」とお言いになり、お屋敷を、私の好きなこの世で一番綺麗な白色の“ホラス”という鉱物でお建てになり、そして新しいメイドロボットまで買い揃えておしまいになった。

“私が「ターカスは今まで通り部屋に居てほしい」と言ったら、お父様は「新式のマリセルの方がお前の頼りになるよ」と言って、それからすぐに危篤になってしまったのだわ…”


私は亡き父との最後の会話を思い出し、今でも父に伝えられなかったこと、父が自分の望みをすぐには理解してくれなかったことを、悔やみ、何より、父がもう居ないことを悲しんでいた。

「お嬢様」

なじみ深い、少し割れた低い金属音のような声に顔を上げると、彼は樹脂に包まれた空洞の目の奥で、微笑みの形にランプを灯していた。彼はいつも通りに体を黒のカマーベストと黒のスラックスで包み、旧式ロボットらしい少し無骨な体をして、丸い頭を私のところまで下げて、私を覗き込んでいた。

「ターカス!探したのよ!どこに居たの?ねえ、私の部屋で遊びましょうよ」

「それよりお嬢様、今はお稽古のお時間ではございませんか。わたくしとお遊びになるのはまた夕になってからにして、わたくしは倉庫に戻ってはいけませんでしょうか?」

“倉庫…?”

「ターカス、どうして倉庫なんかに行くの…?」


私は、嫌な予感がした。倉庫は屋敷の裏庭の端にあり、そこには、壊れたロボットたちも入れられている。

「わたくしは今はあそこで休ませていただいております。亡きお父上も、わたくしのために特別にベッドを設えてくださいまして」

私はその時初めてターカスの今の処遇を聞いた。確かにターカスがメイド長の自室に帰って行くところは見ていなかったけど、父の死や、残された自分がこれからの身の振り方をどうするのか、後見人の叔母から教わって覚えるので、精一杯だった。

“お父様は、そんなことまでして、どうして急に新式ロボットを迎え入れたのかしら?ターカスが居てくれなくちゃ、私はとても悲しくて仕方ないのに…”