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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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第1話 私を連れて逃げなさい!






ここはアステカ高原。古代史によれば、そこにはかつて「アステカ帝国」が建っていたと推測され、元は湖の上の島だった場所は、何万年も変化し続けた地球の動きにより、隆起して大きな丘になっていた。

その丘の一番高いところに、白い小さな屋敷が建っている。屋敷に向かって伸びている道には馬車の轍のような溝が掘られているように見えたが、朝日にきらりと光ったところを見ると、何やら金属でできたレールらしい。

レールに沿って丘の上の屋敷に近づいていくと、その屋敷は二階建てで、玄関はあるが、ポーチはなかった。屋敷前には誰も居なかったが、庭の中にも段差はなく、奇妙なほどに平坦な家だ。だが、二階があるのだから、そういぶかしむことでもないと思えた。

とにかく私はここに、「お嬢様探し」に呼ばれたのだから、仕事をしなければ。

そう思って、「気難しく、気分屋な金持ちの娘を探すだけの仕事」と思って、少し怠い腕を持ち上げ、玄関にあったセンサーの前に、私は立った。








「ターカス!遊びましょうよ!ターカス!どこにいるの?」

私は自分の屋敷の中で、一番のお気に入りのメイドロボットのところまで歩いていくために、頑張って歩行器を使って進んでいた。私は生まれつき少し足が不自由だったから、半自動車輪付きの歩行器を使って、屋敷の中を歩き回っている。今の屋敷も、亡き父が私のために建てた、段差のほとんどない建物で、もちろん二階へはエレベーターを使って上がる。これはどの家でも大差ないけど。

でも私はターカスを見つけられなくて困っていたので、他のメイドロボットに聞いて回った。

「お嬢様、お部屋にお戻りになってください。そのままではお疲れになってしまいます。ターカスなら、わたくしが連れてまいりましょう」

最後に声を掛けたメイド長はそう言って、ワイシャツにベスト、スラックスの姿で、きっちり腰を曲げておじぎをする。でも、この間まではターカスがメイド長だったのに。

私は、メイド長に会った庭にあつらえられたベンチに座り込み、物思いに沈んだ。

“もう旧式だからと、以前に買われてきたロボットたちはみんな雑用係に回してしまって、新しい型のを急にメイドにするなんて…”

私は、薔薇の咲き誇る庭の中で、歩行器は隣に置き、部屋には戻りたくなかったので、そのままターカスを待っていた。

今は午後の稽古事の時間だったけど、私は部屋に戻る気分じゃなかった。

“どこかに行きたい”

ずっとそんな気がしている。屋敷での毎日は単調だし、この屋敷には私以外にはロボットしか居ない。それでつまらないなんていうことはなかったけど、それはターカスが私の部屋を去ってしまう前までだった。

お父様はつい先日亡くなって、葬儀にはたくさんの公人も来たけど、私はそれにはろくに応じることも出来ずに、後見人である叔母さんに頼ってばかりだった。

お母様は、もうずいぶん前に亡くなっている。お父様は元々、ロボット設計と製造の仕事でほとんど家に居なかった。足が上手く動かなかった私は、いつも家で誰かを待っているばかり。


お父様は、亡くなられる前に、「せめて私が娘を愛していたということを残せるように」とお言いになり、お屋敷を、私の好きなこの世で一番綺麗な白色の“ホラス”という鉱物でお建てになり、そして新しいメイドロボットまで買い揃えておしまいになった。

“私が「ターカスは今まで通り部屋に居てほしい」と言ったら、お父様は「新式のマリセルの方がお前の頼りになるよ」と言って、それからすぐに危篤になってしまったのだわ…”


私は亡き父との最後の会話を思い出し、今でも父に伝えられなかったこと、父が自分の望みをすぐには理解してくれなかったことを、悔やみ、何より、父がもう居ないことを悲しんでいた。