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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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お食事のあとでリビングであるホールに戻ってわたくしたちはチョコレートを飲んでいた。男爵がお好きなのはオールドチョコレート。酸味と辛みがあって、大変に古い時代、初めに生み出されたカカオ飲料。まさかそんなものがお好きだなんて思わなかった。わたくしは男爵には言わずに、いつものように甘くしたチョコレートドリンクを飲む。

「あんまり美味しそうにお飲みになりますのね。なんだかうらやましいわ」

「ありがとうございます。こんなに良質なカカオはなかなか手に入らない」

「頂きものですの。お口にあってよかったですわ」

「ええ、もちろん」

ああ、こんなに新しい人と喋るのが楽しいなんて。貴族なんてみんな自慢ばかりかと思っていたわ。

「ところでお嬢様、こんなに長くお座りになっていてお疲れになりませんか?わたくしはご自慢のお庭を見せて頂きたいのですが、その間お嬢様がお休みになるのがよろしいのでは…」

男爵は遠慮をしながらそう言う。まあなんて回りくどい思いやりなのかしら。こういうところは貴族ね。

「いいえ、わたくしが全部教えてあげますわ、いつも咲く薔薇は違いますの」

「ですが…」

「大丈夫ですわ。だってわたくし、初めてお友達ができたのですよ」

「それはそれは、大変に光栄でございます」

男爵は恭しくこちらに頭を下げてくれた。



わたくしたちはわたくしの歩行器に合わせて緩やかに庭を進み、わたくしは一つ一つ薔薇の名前を説明した。

「そしてこれが…」

「クリムゾングローリー。お嬢様の一番好きな品種ですな」

わたくしは思わず大きく振り向き、男爵がどんな顔をしているのか確かめた。彼は驚いてもおらず、むしろ懐かしさを込めて真っ赤に染まった薔薇を覗き込んでいる。

わたくしは、言おうかどうしようか迷った。でもここで口を挟まないのはむしろおかしい。だから言わないと。思い切って。マリセルを振り返ってみると、彼も大いに困惑している。わたくしは腹を括った。この言葉次第で何かが起きるわ。でもわたくしが責任を取らなきゃいけないとも限らない。ええい!

「あなた…なんでもご存じなのね…?」

男爵はクリムゾングローリーから目を背け、悲しそうな顔で庭から遠くの街を見詰めていた。そしてわたくしを振り返り微笑むけど、まだ悲しそうな顔をやめない。

「ええ、とても困ったことに、そうなのです」



わたくしはその夜不思議な気持ちでベッドに横になっていた。不安と気力がどんどん膨らみ、胸を裂いてしまいそうになるのになんだか嬉しい。嬉しいわ。

「彼は…誰なのかしら…」

わたくしは社交界には居なかった。そんな子供の好みなんて社交界に漏らしてはいけないはず。元から機嫌を取っておこうとするのをやめさせるため。それなのに男爵はもうすべてご存じのようだわ。明日はローズ叔母様にテレフォンをしてみなくちゃ。だって叔母様以外に教えられる方は居ないもの。でも変だわ。クリムゾングローリーが一番好きだなんて、わたくし誰にも…