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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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拍手を頂戴して私が椅子を降りると、どこからか男爵様が飛んできてちょうどぐらついた私の手をお取りになる。さてはこれを待っていたのかしらと少し感じてしまったけど、彼は私に向かって微笑んだだけだった。

「ありがとうございます、ゴルチエ様」

「いえいえ、お嬢様のお役に立てれば光栄でございます。そちらはこのお屋敷には珍しく段差ですので、お気をつけになってください」

その時私は妙な違和感を感じた。普通は防犯のためにお屋敷の設計図なんかわからない。だから今日初めて来た男爵様が、ピアノが動かないように段差を作ってあることなんか知るはずがないわ。でももちろん見てわかるのだし、気のせいかと思った。私が足が悪いのはみんな承知だもの。「お屋敷は段差がないのだろう」と思ったって当たり前…どこか拭えない不安を感じながらも、私は元のソファに戻った。その時は男爵様もついてきた。

「それでは皆様!遅ればせながらも、ヘラお嬢様にどうぞプレゼント攻撃を!」

高らかに男爵様がそう叫ぶと、一斉に人々は私の周りに集まった。ちょっと怯えそうになってしまうくらい。みんなが道を譲ったのはさっきの侯爵夫人だった

「では私から。お嬢様、ご無事で何よりでございます。今日お姿を見られて私は安心できました。ささやかですがこちらを受け取ってください」

夫人は私にもお辞儀をし、そして小さな包みを下さった。それは一見すると時計のようだったけど、もしかしたらブローチかもしれない。

「お心遣いに感謝します。わたくしも、夫人とこんなにお近づきになれて大変光栄ですわ。実は少しだけですけれど、お叱りを頂戴するのではないかと思っておりましたのよ」

そう言うと夫人はお笑いになっただけで、次の方へと私の前を開けてくれた。

プレゼントはすべてマリセルが用意した棚の上に乗せ、それは序列の高い方の下さった品物がより前に、より高く置かれていたみたい。後ろを覗いてみて驚きを抑えるのが大変だった。

遂に男爵様の番。彼が前に進み出ると、噂話の好きそうなご婦人方がひそひそと何かを囁きかわすのが見えていた。

「お嬢様、お誕生日を過ぎましたが、14歳おめでとうございます。どうかこちらをお受け取りになって下さい。きっとお嬢様の大好きなものが入っていますよ」

「ありがとう男爵様。お礼が一番でなくてとても残念ですわ」

「いえいえ。どうぞこの場でお開けになってください」

その場にどよめきが起こった。プレゼントを人前で開封させるなんて、普通は許さないものなのに。この人はそんなに自分のプレゼントに自信があって、みんなとの差を見せつけたいのかしらと思ったけど、もう一度お礼を言って丁寧に紙包みのテープ面を剥がす。見た感じごつごつしている歪な袋だったけど、少し軽かったのでぬいぐるみかもしれない。そんなものをプレゼントに選ぶ貴族も珍しいわ。でも私は包みから現れたぬいぐるみに叫び声を上げる。

「ええっ!?」

そこにあったのは、寝室と同じ「ミミ」のぬいぐるみだった。信じられない。寝室のことなんか誰も知らないはずなのに!

「男爵様…?」

真意を聞くのも怖かった。どうしてそんなことを知っていてどうしてそんなものを贈るのかなんて、気味が悪くて考えたくない。

「お嬢様」

私は男爵様にそう呼ばれて「はい」と返したけど、男爵様は「お嬢様」ともう一度繰り返すばかり。困ってしまってマリセルを振り返ると、彼は行動を起こしてくれた。

「ゴルチエ男爵、なぜこれをお選びになったのですか?お嬢様はそれを聞きたいのですが、あまりに驚いて声も出ないようなのです」

ゴルチエ男爵の浅黒くがっちりした体はみるみるうちにしぼんで、顔には深い悲しみの皺が刻まれた。私はその時頭がひどく痛み始めていた。

「お嬢様…」

見かねた周りの人たちがゴルチエ男爵を囲い込んで手を取ったり肩を叩いたりして、「うまくいかないとて諦めないことです、まだ一度目じゃありませんか」なんて声を掛けていた。私は頭の痛みに堪り兼ねて、マリセルに薬をもらう。

「マリセル…なんだか頭がひどく痛むの…疲れたのかもしれないわ…」

「すぐにお薬をお持ち致します。こっそりとお飲みに。それから、お客様はそろそろお帰りになりますから、しばらくすればすっかり休めますよ」

「ええ…変なこともあるものね…」

その晩私は枕元のミミを見て頭の痛みがぶり返しそうになったから背を向けたけど、何度か夢を見て跳ね起き、でも何を夢見ていたのかは思い出せなかった。