短編集93(過去作品)
染まりやすいということを考えた時、自分が物忘れの激しいことを思い出した。他のことに意識が行ってしまいやすいことが忘れっぽい性格を生むのであれば、染まりやすいともいえないだろうか。
隆二自身が白なのだ。
限りなく百に近いが百になることは永久にありえない。だが、完璧な百はそれ以上でもそれ以下でもない。白は二百になることも千になることもできる。間違えばゼロにもなりうるのだ。
そのことを彼女が教えてくれた。
減点法にしても加算法にしても、さらには長所と短所、すべては表裏一体なのだ。表があって裏がある。裏の存在を認めないと表もない。
――百に近づこうとする表の自分、百にならなくともいいから白でいたいと思う裏の自分――
どちらが本当の自分?
きっとどちらも本当の自分に違いない。
きっとここで仕事をしている限り安心だ。斉藤も、彼女も二人ともしっかりと隆二の表と裏を見続けてくれているからだ。
きっとこれからの仕事はうまくいくだろう。彼女を斉藤に紹介もした。お互いにあまり目を合わさないようにしていたが、どこかよそよそしそうに見えたのはなぜだろう?
――今までの自分には見えなかったことだ――
今まで見えなかったものが見える気分は何とも複雑だった。
そう感じた隆二は、斉藤と彼女の裏を探し続けていた……。
( 完 )
作品名:短編集93(過去作品) 作家名:森本晃次