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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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268.一生のお願い



 一生のお願いを何度も言う人って、結構いる気がする。

 別にそのことを、わざわざ怒ろうというわけじゃない。そういうキャラの人もいるし、すぐに忘れてしまうお間抜けさんだっている。それに、一生のお願いを何度も言うのも、人生の戦略としては、まあ、悪くはないなのかもしれないし。

 だが、ふと思ったことがある。その人、実際に何度も死んでいる、なんてことは考えられないだろうか。

 マイクロスリープという現象がある。数秒間から数十秒間というほんの短い間、眠ってしまう現象だ。睡眠の不足などで起こると言われているが、それは今は脇に置いとこう。私が言いたいのは、意識を失うという点で睡眠とよく似ている死が、われわれの生活の営みの中で、断続的に起こっていないなどと、どうして言えようかということだ。

 一生のお願いを何度も言う人は、もしかしたらこのことを、感覚的に分かっているのかもしれない。瞬間的に、自分があの世に行っている。三途の川や血の池地獄、あるいは全てが満ち足りた極楽。それらの光景をながめた一瞬の記憶が残っていて、つかの間、生命活動を終えてしまったという事実をちゃんと把握している。それをわきまえた上で、彼らは一生のお願いをしているかもしれないのだ。

 何だって、そんなの信じられない? いや、信じてみてくれよ。この通り、一生のお願いだからさ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔