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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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352.亭主の仕事



 妻が部屋の断捨離を始めた。

 彼女は付き合っていた頃から、悩みや不満があると断捨離や片付けを始める癖があった。エネルギーをそういったことに費やす性格なのだろう。

 旦那の身分としては非常に分かりやすくてありがたい。部屋がきれいになり始めたら、声を掛けて悩みを聞いてみればいいのだから。もちろん、片付ける前から気遣っているつもりなのだが、仕事だ何だでそうは行かないときもあるので本当にありがたい。

 さて、今回はかなり大きな悩みのようだ。すごい勢いで片付いていく部屋を見ながらそう思う。私は妻の傍らに座る。

「これは、必要かい?」
「それは、記念品だから取っとこうか」

まずは断捨離に協力しつつ寄り添うことにする。そして、頃合いを見計らって、

「なんか、あったのかい?」

と切り出すのだ。

 予想通り今回は重大だった。私たち夫婦の一番の悩みの種かもしれない、子どもを授からないことだ。僕は別にほしいと思っていないし、僕らの両親4人も孫の顔は見たいだろうけど、今のところ特に強く言ってくる様子はない。妻の勤め先も、忙しくて子どもはまだと考えている家庭があると聞く。じゃあ、誰がと思ったら、大学時代の知人から久しぶりに連絡があったようだ。その知人は、最近結婚した上にデキ婚だったらしく、そこでねちねち言われたらしい。

 他人と人生を比較するのはどうかと思うが、話を聞いていない私だからそう言えるのだろう。私も学生時代の友人から、子どもの魅力を1、2時間も掛けて語られれば、心に黒いものが宿りかねない。

 まず、これは僕ら二人の問題であることを伝える。そして今度、二人で病院にあらためて行ってみようと約束する。さらに、子どもができてしまえば、二人での生活はしばらくできなくなるであろうことを話す。子育ては確かに素晴らしいし、子どもがいる生活もきっと面白いだろう。でも、二人での生活も同じくらい楽しいし、それをもう少しエンジョイしてからでもいいはずだ。

 断捨離をしながら、こんなことをつたない言葉で話していく。次第に何もなくなっていく部屋。妻の顔は少しずつ険が取れ、仕方がないかという顔つきになっていく。
 一つの部屋が片付く頃、妻の顔もすっかり晴れやかになっている。あとは、久しぶりに二人で外食するか、お弁当でも作って公園に出掛けるかしようかな。


 しかし、断捨離が私の部屋にまで及ばなくて本当に良かった。不倫相手の家庭に托卵した子どもがいる証拠を押さえられたら、私まで捨てられかねないもんな。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔