火曜日の幻想譚 Ⅲ
272.記憶抹消の刑
帝政期のローマには、「記憶の抹消」という刑があったとか。
例えば、クーデターを起こして失敗した人物や、政争に敗北して政敵に恨みを買った人物など、政治的に失脚した人物に対して行われていたらしい。
その方法は簡単。碑文や硬貨、その他あらゆるものから、その人物の名や姿を抹消していくというものだ。要するに、存在そのものを、なかったことにしてしまおうという刑なのだ。
具体的には、ドミティアヌス帝やカラカラの弟ゲタあたりがこの刑に処されているが、結局のところ、彼らの名を私ですらも知っているところを見ると、なんだかなあと思ってしまう。まあ、この刑のおかげで今現在、伝わっていない人物がいても、私たちには分からないわけだが。
それはさておいて、この記憶抹消の刑、今ならほしい人もいるかもと思う瞬間がある。特にネットで炎上してる人なんかを見ているときだ。
彼らがあわてて、SNSのアカウントを消しているとき、僕らの記憶からも消えてしまえばいいのにと思っているに違いない。そんな彼らにうってつけの刑だなと、たまに思うのだ。
でも、そんなに都合のいいもんが、あるはずもないんだけどね。