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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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276.Ranker



 中世フランス。その片田舎の村に、ジャック・ドゥ・ウルチューレという男が住んでいた。

 大学で神学教授をしていたウルチューレだったが、その名を現代にとどめているのは、専門の神学による功績ではなく、その熱狂的ともいえる書物収集癖だ。
 ウルチューレは62年の生涯を終えるまでに、数百万冊の書を所有した。自分の寝床よりはるかに大きい書庫を建てた彼は、そこに自分の本を片っ端から入れていき、いっぱいになれば建て増しをするという日々を過ごしていたと伝わっている。
 また、彼は本の並べ方も独特だった。本を棚に並べるとき、皆さんはどうするだろうか。タイトル順という人もいれば、作家順という人もいるだろう。本の大きさで決める人もいるはずだ。あるいは、ただ乱雑に詰め込むだけ、という人もいるかもしれない。

 ウルチューレは、上記のどれも採用しなかった。大きさもタイトルも著者もばらばら、だが、決して雑多でもなかった。ある厳格な基準でもって、彼の本は整然と並んでいたのである。

 彼の知己が残した日記によると、ウルチューレは若い頃から本に順位をつける癖があり、その習慣を死ぬまで守り通したらしい。そして、その順位は書の位置を決定づけていた。言い換えれば、彼の本棚はそれ自体がランキングになっているのだ。
 ウルチューレの本棚は、本が左上に置かれるほど彼にとって評価が高く、右下へ行くほど低いということになっている。左上には、やはり彼の専門である神学関係の書が並び、右下には異端なものや悪魔を崇拝する書が置かれている。彼は律義にも、自分の思想と相いれない書も収集し、目を通していたようだ。
 中央付近には、なぜこの書がもっと左上に、あるいは右下に置かれないのだろうか、という作品が何冊か見つかっている。恐らく、政敵や嫌いな人物が書いたゆえに順位を下げているものや、しがらみで右下に置けなかったものなのだろう。彼の並べ方は、その当時、既に世に知れ渡っていたそうだから。

 しかし、ウルチューレにとって皮肉なのは、彼自身が書いたものよりも、書かずに並べただけのこの本棚のほうが、よほど彼という人間の本質がにじみ出ているということだ。悲しいことに、今、彼の著作はまず顧みられない。だが彼が並べた本棚は、当時の知識人の心情が現れているとして、現在もたくさんの人々が研究対象にしているのだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔