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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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279.整頓者の憂鬱



 時間ができたので、図書館へ行くことにした。

 特に目的もなく行ったので検索機などは用いず、自分で棚を見て回る。自分の興味を引く棚から、タイトルからしてもう意味の分からない本が立ち並ぶ棚まで、暇に飽かせてとにかく本の背表紙を見て回る。
 見始めて10分ほどたった辺りだろうか。私は国内文学の棚の3段目に目をやったところで、ふと違和感を覚えた。他の棚と何かが違う。何が違うんだろう、しきりに横の棚とそことを見比べて、違和感の正体を探る。
(あ、順番がぐちゃぐちゃだ)
そう、他の棚はほぼ作者名順にていねいに並べられて秩序だっているのに対し、ここだけはそうなっていない。恐らく司書さんが忙しくて、整頓する暇がないのだろう。
 分かってしまえばなんてことはない。私は次の棚に目をやり、本を眺める作業に戻る。だが、気持ちは既に、秩序だっていない先ほどの棚に引き込まれている。違和感の正体に気付いてしまい、それが自分の手でも修正が可能な事象だと分かると、私は、いや、人は、と言ってもいいかもしれない、どうしても、手を下したくなる欲望に駆られるものだ。

 私はおもむろにその棚に戻って、本を手に取り、所定の場所に入れるという作業を開始した。
(えーと、「さくらももこ」は取りあえずここだな)
(「斎藤栄」に「佐伯泰英」。どっちも大御所だ)
(「佐藤春夫」はこっち。「坂口安吾」はあっち)
(「紗倉まな」って、あの人、本、書いてたんだ)

 あらかた入れ替えを終えて満足そうに棚を眺める。すると、ふと背後に突き刺さる誰かの視線。振り返ると女性の司書さんが、じっとこっちを見つめていた。
「あ、すみません。つい」
差し出がましい事をしてしまったという思いと、整理に夢中になっていたところを見られた恥ずかしさで、思わず顔が真っ赤になってしまう。そんな私をじっと見つめる司書さん。何か言わなければ、追い詰められた私は、どうにかこの場を取り繕おうと言葉を発した。

「さ行だったんで、つい作業しちゃいました」

 以来、この図書館には行ってない。もう行く気もない。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔