火曜日の幻想譚 Ⅲ
281.3分間
カップラーメンを作ろう。お湯を沸かして、やかんから湯を注ぎ、ふたをする。待つこと3分。
3分間。180秒。麺がちょうどいい硬さになり、粉末スープが十分お湯に溶ける時間。決して長い時間じゃない。でも、この3分が、とある人の人生や、時には国家の明暗を分けたこともあるのかもしれないと思うと、妙な気持ちになってくる。
例えば、試験の終了3分前。そこで解答欄が一つ、ずれていたことに気付く。3分あればどうにか間に合うが、これが数秒前に気付いてたら命取りだった。過去、たくさんの人間がたくさんの試験を受けてきて今がある以上、こんな人もいたのではないかと思う。
例えば、城が攻め落とされる寸前。あと3分持ちこたえていたら、もう少しだけ判断を先送りにできていたなら、はるかかなたに援軍の影を認めて、逆転勝利の道が開けたかもしれない。史実に詳しければ、具体的な例を挙げられるのかもしれないが、浅学の徒でしかない私は、せいぜいその状況を夢想するだけだ。
どちらにしても、時間はよくよく大切にしないとな。そんな陳腐な教訓で自分を納得させて、僕はカップ麺のフタを開く。おいしそうな匂いと煙の奥にいる魅惑のヌードルと具材とスープ。
3分間でこれだけのものがよくできるなあ。そんな思いを胸に、僕はよくかき混ぜた麺を勢いよくすすりこんだ。