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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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287.変わり湯



 お風呂に何かを入れるのは楽しい、そうは思わないでしょうか。

 例えば、入浴剤。湯の色が変わるもの、泡が立つもの、いい香りのするものとバラエティに富んでいて、今日は何を入れようか考えるのも面白いと思うのです。
 端午の節句にしょうぶを入れたり、冬至にゆずを入れたりするのも風情があると思います。他にも季節に入れるものはあるそうですから、調べてみるのも面白いですね。
 いささか子供じみていますが、おもちゃをお湯に浮かべるのも楽しいです。定番のゴムのアヒルだったり、船や泡の出るものを浮かべるなんて人もいるでしょう。

 実際、東西を問わず、大抵の文化でお風呂に何かを入れています。こう考えると、人間は浴槽に何かを入れたり浮かべたりしたい、そんな欲望を持っているということに気が付くでしょう。そう考えると、次は何が起こるでしょうか。最もきれいで美しい「湯」を知りたくなるのではないでしょうか。今回は、その最も美しいお湯を皆さんでシェアしようと思います。

 まず、浴槽にワインを100mlほど投入します。赤と白がありますが、視覚的に良いので、赤のほうをお勧めします。赤い花びらなどを散らすとより効果的です。次に、季節のものを入れていきます。春は桜やしょうぶ、夏はハッカ、秋にはしょうが、冬には松やみかん、先述のゆずなど、その季節の物を適量、投入するのです。最後に、ワインのお湯が血を連想させるように、水鉄砲と人形を浮かべます。

 これで完成ですが、最後に注意事項があります。これは最も「美しい」湯ですので、これ以上は、何も入れてはいけません。そう、あなたも入ってはいけないのです。このような美しい湯に、醜い人間が入るなんてことはもっての外です。癒やされたい方は別の方法を用いてください。

作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔