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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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288.みそぎ



 少し前、奇妙なイベントが行われた。

 芸能人が、一日だけ警察署の長などに就く一日署長というのはよく耳にする。だがこのときに行われたイベントは、その名も一日服役囚。男性アイドルグループが全員、囚人服に身を包み、ろう屋に入ったり、作業を行ったりするというものだった。
 朝食から刑務作業、昼食を経て夕食までと、実質、半日程度だったが、服役体験を終えたアイドルたちは出所後、その生活の厳しさを言葉を尽くして語った。彼らの代わりに、つかの間外に出られた服役囚たちも、厳重な警護の下でインタビューを受け、現在の悔悟の日々を切々と打ち明けた。その結果、アイドルグループの好感度も上がった上に、服役囚の赤裸々な思いも明るみになり、大きな反響を呼んだ。

 すると当然、これに目をつける人が出てくる。何も最初から高感度が高いアイドルがやらなくてもいいだろう。むしろ、そのフィールドは俺たちのためにあるという勢いで、彼らは次々と一日服役囚に名乗り出た。いわゆる過去に炎上した人々である。一日とはいえ服役囚をする、これはみそぎにうってつけだというのである。
 この流れに素早く飛びつくことができたものたちは、素晴らしい恩恵を得ることができた。スキャンダル後の弔い合戦に勝った政治家のごとく、彼らは許され、再び復権し以前の権勢を誇る。しかし、問題もいくつか発生した。本当に刑務所内のあの過酷な身体検査を受けているのか。検査が甘ければ、他の受刑者に脱獄するための道具などが行き渡る可能性があるという指摘。もう一つ、こちらは民衆の飽くなき欲望がそうさせたのだろう、一日、服役したくらいではみそぎにならないという意見。

 しかし、この二つの問題。これを一度に解決させるものが現れた。他の服役囚に会わずに済む上、今まで以上にみそぎになるもの。そう、一日死刑囚への就任である。

 一日死刑囚は、その日一日、誰も会わずに独房で過ごす。だが翌朝、刑務官が掛ける言葉で運命が変わる。
「一日死刑囚、お疲れさまでした」
と言うか、
「これから、刑を執行します」
と言うのかだ。

 今まで数人の猛者が、この一日死刑囚にチャレンジしているが、その日が執行日だったという不運なものはまだいない。だが、仮にその日が執行日だったら、彼らは甘んじて刑を受けるのだろうか。そして、生き永らえた死刑囚は野に放たれてしまうのだろうか。

 結果を知るものはまだいない。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔