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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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293.サッカーもどき



 小学生の頃、学校の休み時間によくサッカーのようなものをやっていた。

 審判はいない、オフサイドもない、声の大きいものがルールという小学生ならではのものなので、あえて「ようなもの」としたが、だいたいどこの小学校でも似たような感じだったろうと思う。

 僕はどちらかと言うと当時、運動ができるほうではなかった。そもそも体を動かすのが嫌いだったし、運動が好きな子のどこか高圧的なところも好もしく思ってなかった。だが、小学生といえども、人間関係の糸は多重に張り巡らされている。僕はそのしがらみの中で、同じ思いを抱える何人かの同士とともに、仕方なくこの競技に参加していた。
 当然、スポーツが好きないわゆる快活な子たちは、そんな僕らのやる気のなさが気に入らない。こいつらが一緒のチームにいると足手まといだ。ならば、相手チームになってもらおう。必然的にこういう考えに思い至る。
 チーム分けは最初にグーパーで2組に分けるので、休み時間前に話をつけておけば、いくらでも操作できる。そこまでするなら、初めから好きなようにチームを作ればいいと思うが、恐らく、大義名分がほしかったのだろう。
 こうして、僕らの休み時間のサッカーもどきは、運動が好きな人VS運動が嫌いな人という構図になったのだった。

 いざゲームが始まる。相手チームはそりゃあもう、サッカーが大好きな人たちばかり。当然、前のめりでみんながゴールを目指してくる。一方で、嫌いな人チームの僕らは士気が低い。数人が前面に出るが、すぐさまボールを奪われてしまう。そして自陣ゴール前で、ダラダラと雑談に興じている僕らに向かってくる。
 彼らの到来に気付くと、僕らは渋々、雑談をやめて彼らを取り囲む。話の続きがしたくてたまらない僕らは、数の利を生かし、さっさとボールを大きくクリアしてしまう。そして、一仕事をしたご褒美とばかりに、再び無駄話に興じるのだ。
 なぜかはいまだに分からないが、僕らは、できる人たちを食い止めるのにそれほど苦労しなかった。必ず多人数で取り囲み、こぼれたボールを敵陣へ大きく蹴る、それだけでしばらく相手は来なくなる。それを片手間に行い、雑談のほうをひたすら楽しんでいた。

 できる人チームは面白くない。絶対に勝てるチーム分けにしたのに、やる気のないやつらが打ち破れない。彼らはイライラして、さらに前がかりに攻め立ててくる。同士がどう思っていたかは分からないが、性格の悪い僕はそれも痛快だった。直接ゴールを狙うコーナーキックや、怪しい反則からのフリーキックすらもさっさとクリアして、僕らは雑談に没頭した。
 ある時は、できる人の首領みたいな子が放った絶妙なロングシュートを、ヘディングで止めてやったことがあった。あの時の彼の悔しそうな顔ときたら。しばらくそいつに目をつけられ、いろいろと言われたが、それでも得意満面なやつの鼻っ柱をへし折れたのは楽しかった。

 あれから数十年。運動もろくにせず、おなかの突き出たいい大人になった。そんな今、あのサッカーもどきが無性にやりたくて仕方がない。本物のサッカーでもフットサルでもない、あの大味なサッカーもどき。まあ、今、やったら全然体が動かなくて、当時の幻想も砕け散ってしまう気がするけれど。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔