火曜日の幻想譚 Ⅲ
296.ものと人
僕の部屋には、要らないものばかりが山のように置いてある。
どうにも捨てられないのだ。長く使ってきたものは、その分愛着がわいてしまって捨てられない。
「これ、いい加減捨てないの?」
妻にこんな刺々しい口調で言われても、それを見た途端、使ってた頃の思い出がよみがってしまう。
一方で、それほど使っていないものに対しては、もったいないという思いが先に出てしまう。
「使わないんだったら、捨てなさいよ!」
妻にこのようにきつめに言われても、いつか彼らを使うべき場所が来ると思ってしまう。
どちらにしても、僕はものが捨てられない男なのだ。
反対に妻は、捨てることが大得意だ。断捨離を定期的にしていて、彼女の部屋はとてもすっきりしている。一つ屋根の下に住んでいることが、信じられないくらいだ。
そんなふうに思っていたら、案の定、我慢できなくなった妻から離婚を切り出された。何となく予想をしていた僕は、二つ返事でそれを受け入れる。こうして僕らは、別々の道を歩んでいくこととなった。
それから数年後、風のうわさで元妻の話を聞く。それによると、どうやら人の旦那に手を出していたらしく、今は慰謝料に追われて大変な生活をしているらしい。
ものを捨てられぬ人が、人間関係を断つのが下手とは限らないように、ものを捨てられる人が、人間関係を断つのもうまいとは限らない。
人間とは、難しいもんだ。僕は相変わらず不要なものだらけの部屋の中で、そんなふうに思った。