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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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297.娘たち



 先日、幼稚園のおゆうぎ会があったが、その中でただ一人、うちの娘だけがダンスができなかった。

 お友だちみんなが、そろってきれいな動きをしている中、娘は一人、キョロキョロしながらたどたどしい動きをしている。しばらくすると動くのをやめ、ポロリと涙を流したと思ったら、大声で泣き出してしまった。

 あわてて保育士さんがやってきて寄り添うが、むずかってしまってもう手がつけられない。見ているこっちがいたたまれなくなるほどの有り様だった。

 話を聞いてみると、どうやら、練習ではできていたらしい。大勢の人が見ていると駄目なたちのようだ。元から人見知りは激しいことは分かっていたけれども……。

 お母さん同士でいると、よくこの話が上がる。みんな悪気はないんだろうが、うちの子だけがああなったという事実に、いろいろな不安が押し寄せてきてしまう。これから先、あの子はやっていけるだろうか。もしかしたら、重大な何かを抱えているんじゃないだろうか。

 困った末、田舎の母に電話をすることにした。しかし、母は話を聞いた瞬間から、笑いをこらえきれないようだった。私があらましを伝えたあと、母は笑ってしまったことを謝ってから、懐かしそうに言ってきた。

「気にすることなんかないわよ。あんたもそうだったし、私もそうだったらしいから」

 どうやら、うちの家系の女子は先祖代々、小さい頃はこの手の物事が苦手らしい。

「うちでは、『女子が怖じるはすぐまとまる』って言葉があってね。うちの家系で小さい頃に人見知りや緊張する子は、将来、もてるようになるの。それが証拠に、私もあんたも結婚は早かったでしょう?」

 確かに母は結婚が早かったそうだし、私も大学時代に既に婚約をしていたぐらいなので、今の平均からみれば早いほうだ。

「人に緊張するっていうことは、それだけちゃんと人を人として見てるってこと。だからね、人に対して細やかな気遣いができるって証拠なの。きっと夏菜ちゃんも、すぐいい旦那さんが見つかるわよ。もちろん、今の時代、結婚が全てじゃないけどね」

 なるほど。そういうもんか。胸をなでおろす私だったが、母はこういうふうに言うと油断する私を知っているのか、一応、旦那さんに相談しておくことと、あまりにひどいようなら病院に行くことを勧めるのを忘れなかった。

 こんなにそつがないこの母も、小さい頃は人見知りだったのか。私はちょっと恐ろしくなるとともに、娘が子を成すころ、ここまでになれるだろうかという疑念がちょっとわいてきてしまった。が、そこは血筋を信じてみようかと思う。

 そんなやり取りをする母と祖母をよそに、娘は一生懸命、お人形さんを手にして遊んでいた。

作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔