火曜日の幻想譚 Ⅲ
317.野球少年
パソコンで作業していると、裏の広場で子どもたちが野球を始めた。
バットの快音や、グラブにボールが収まる音。それに混じって掛け声や笑い声が聞こえてくる。昨今は、屋外で遊べる場所も少なくなった。こんな狭い場所で良ければ遊べばいい。そんな気持ちでパソコンで作業をしていたら、当たりが大きかったのか、ボールがうちのアパートに飛び込んできた。
「おいおい、狭いんだからうまいことやってくれよ」
僕はぼやきつつ、窓から庭へ出る。……そして、転がっていたボールを広場に転がしておいた。
「おー、あったあった」
「あれ、この家に飛び込んだと思ったけどなぁ」
「見間違えたんだろ」
「そっか」
ボールをつかみ、子どもたちは戻っていく。家の中に入っていた僕は、その様子をながめていた。
「訂正するわ。君ら、うまいことやってくれたよ。お礼に、アパートにボールは入り込んでないことにしとくからな」
庭で大嫌いな隣人が、額から血を流して死んでいるのを横目に見ながら、僕はつぶやいた。