火曜日の幻想譚 Ⅲ
319.なべ
なべの季節だ。早速作って食卓に持っていく。
いわゆる一人鍋というやつだが、これはこれでいいもんだ。まずはしゃきしゃきのえのきを箸に取り、ポン酢につけて頬張る。うん、うまい。
崩れそうな豆腐をつまみあげ、たらのさっぱり具合に舌鼓をうち、春菊のほろ苦さをさかなに日本酒をあおる。ああ、こりゃたまんねえ。
実を言うとネギは苦手なんだが、今日は機嫌がいいので口に運んでやる。おお、悪くない。もうちょっと入れても良かったかな。今度、作るときはもっと入れてやろう。食べてる最中なのに、もう次回のことを考えてしまう。
終盤、しなっしなになった白菜をかき集める。だしが染み込んだこいつが、これまた、うまいこと、うまいこと。こんな幸せな時間、なかなかない。常に冬でいいぐらいだ。やっぱり嫌だけど。
締めはやっぱりこれ、うどん。酔った後の麺類はなんでこんなうまいんだろう。これが合法だなんて、ちょっと信じられない。
食べ終わり、腹も膨れて落ち着いた後、、なべを台所に持っていく。その瞬間、ピーッという音がした。どこからかと思ったら、隅に置かれている炊飯器から。
ご飯をたいていたのをすっかり忘れていた。
まあ、保存しときゃいいのだけど、あんまり調子に乗るもんじゃないなあ。ご飯のたけた匂いにむせ返りながら、ちょっと反省しつつ、なべの洗浄に取り掛かった。