火曜日の幻想譚 Ⅲ
338.しみ
朝。今日は大切な用事を控えていた隆弘は、朝食を取っていた。
朝食はいつものように、トースト、ハムエッグ、コーンスープ、むいたりんご。
彼はいつものように、私が用意したそれらを平らげていく。はじめにトーストを食べ終わり、次にハムエッグ、ややあってりんごの小皿が空になる。
「さて、今日も始めようか」
最後に残ったコーンスープに目をやり、隆弘はスープ用のスプーンを手に取った。すーっとスプーンは降りていき、膜の抵抗を受けつつもスープをすくい取る。それを口元に持っていくとき、異変が起こる。
ぽたり。ぽたり。
隆弘の手は震え、スープがこぼれ落ち、一張羅にしみができる。彼はスプーンからほとんど失われたスープをすすり上げ、同じ動作を繰り返す。
やがてスープ皿を空にした隆弘は、私の前に来て胸元のしみを見せびらかす。
「ほら、これでいい?」
「うん」
私の確認をとってから、隆弘は出かけていく。
絶世のイケメンである隆弘は、言い寄られるのを避けるため、外出する度に胸元にしみを作っていく。ご丁寧にしみを作るところから、できたしみの跡までを私に見せて。
もっとも女である私は、その程度で言い寄るのをやめる女など、いやしないことを熟知している。だから毎度、心の奥底で見え透いたアリバイを笑いながら、出ていく彼を見送るのだ。