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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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340.動物園の秘密



 全ての動物園は秘密を隠している。

 動物園と言えば、大人も子どももみんな大好きな憩いの場と言っていい。だがその動物園が、かなり物騒な秘密を隠しているとしたらどうだろうか。
 いや、そんな秘密などあるわけない。動物園は私たちに、ありのままの姿をさらけ出しているはずだ。そんな意見もあるだろう。というより、そんな意見がほとんどだろう。

 だが残念なことに動物園は、本当に重大な秘密を隠しているのである。

 その秘密とは、飼育している動物に関することである。実はあそこの動物たちは、全てを理解してあのおりに入っているのである。

 彼らは人間が自分たちを見るために、お金を払ってやって来ることを知っている。彼らは自分の生命が尽きるまで、おりから出られないことを知っている。彼らは自分の人気がなければ、容赦なく殺処分になることを知っている。彼らはこの動物園自体が閉園すれば、その先が悲惨なことも知っている。

 彼らは動物園の、ひいては人間界のおきてをも理解して、あのおりの中にたたずんでいるのだ。

 だが、それでも彼らは生きることを諦めない。悲しそうな目をした象も、長い首で遠くをながめるきりんも、ゆうゆうと寝そべるライオンも、何もない虚空に羽を広げるクジャクも、1ミリたりとも生きることを諦めていないのだ。
 これから動物園に行く機会があるときは、彼ら動物たちをよく見てみるがいい。力強い生命力で、全てを悟りきった目で、何も知らないわれわれ人間どもをながめてくるのを目にすることだろう。


 なお、この件を動物園に連絡しても無駄である。どの動物園もこの秘密を守るためなら、どんな犠牲もいとわない。きっと握りつぶされ、あなたはただの狂人として扱われることだろう。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔