火曜日の幻想譚 Ⅲ
345.悪口
義理の母はどうにも口さがない人だ。
とにかく人についてズケズケと物を言っていく。そして、それは大抵悪口だ。良く言えば正直、悪く言えば口汚い、そんな人なのだ。
伴侶にしたのはその方の娘さんなので、最初は別に構わないだろうと思ったのだが、義理の息子という立場は、一番、いろいろと言いたくなる関係性な気がする。一度それに気付いてしまうと、影でどう言われているか気になって仕方がない。そんなことに一々かかずらってはいられないのだが、気にするな、というのも難しい。
と、言うことで妻に相談することにした。それとなく聞いてきて教えてほしい、というわけだ。一度、妻というフィルターが入るのはやや心配だが、愛する妻はこちら側だと信じたい。
「多分、何も言ってないと思うよ」
妻の第一声はこれだった。そんなことってあるだろうか。あれだけいろんな人を批評しているのに、自分だけ何も言われないっていうのもおかしいじゃないか。そう言う私に妻は言い返す。
「だって、お父さんに聞いても弟に聞いても、あなたについて何か言ってる様子がないんだもん。本当に興味ないんだと思う」
なんだそれは。それってすごいのか、逆に駄目なのか。
私は義母に悪く言われたくないのか、それとも言ってほしいのか、分からなくなってきてしまった。そんな私を見て、過去、散々、母親にいろいろ言われてきたであろう妻はちょっと羨ましそうに鼻で笑っていた。