小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚 Ⅲ

INDEX|15ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

346.てるてる坊主の憂鬱



 10日ほど前の夜、眠たい勇太くんに目をこすりながら、彼は作られました。

 丸めたティッシュを別のティッシュで包み、首の部分を輪ゴムでまとめます。体をスカートのように可愛らしく広げ、顔を描いてつり下げるひもをつけて完成。
 10日前、こんなふうに心を込めて、勇太くんはてるてる坊主をこしらえました。その理由は、お母さんの職業にあります。女手一つで勇太くんを育てているお母さんは、ゴルフ場のキャディさんのお仕事をしています。雨が降ってしまっては、ゴルフをするのは難しいでしょう。雨が降るたびにため息をつくお母さん。そんなお母さんを見て勇太くんは、ドンと胸をたたいて言うのです。
「お母さん、僕に任せておいて」
というわけで、勇太くんはてるてる坊主を作り、軒先につるしました。もし雨が降ったら、首をちょん切って捨てちゃうぞと言い聞かせて。そうしたら、もう10日も晴れの日が続いているのです。そういうわけで今日も、てるてる坊主に明日、晴れにするよう頼んでから、勇太くんは眠りについたのです。

「……どうしようか」
てるてる坊主は困った顔で空を見上げます。彼は明日、晴れにするか雨にするか迷っているのです。
「勇太くんの約束を守るのは簡単だけど……」
てるてる坊主が考え込んでいるのには、理由がありました。今日の昼、彼は軒先から、こんな井戸端会議を聞いたのです。

「……そうなのよ。武中さんのおうち、傘屋さんでしょう。最近売上が厳しくて、引っ越しを考えているらしいわよ」

武中さんといえば、勇太くんが大好きな女子、美琴ちゃんのおうちです。このままずっと晴れにしていると、勇太くんの大好きな美琴ちゃんが、引っ越してしまうかもしれないのです。

「言われた通り、明日、晴れにするか。自分の首と引き換えに美琴ちゃんの引っ越しを止めるか……」

 てるてる坊主の長い一夜が、今、幕を開けました。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔