火曜日の幻想譚 Ⅲ
346.てるてる坊主の憂鬱
10日ほど前の夜、眠たい勇太くんに目をこすりながら、彼は作られました。
丸めたティッシュを別のティッシュで包み、首の部分を輪ゴムでまとめます。体をスカートのように可愛らしく広げ、顔を描いてつり下げるひもをつけて完成。
10日前、こんなふうに心を込めて、勇太くんはてるてる坊主をこしらえました。その理由は、お母さんの職業にあります。女手一つで勇太くんを育てているお母さんは、ゴルフ場のキャディさんのお仕事をしています。雨が降ってしまっては、ゴルフをするのは難しいでしょう。雨が降るたびにため息をつくお母さん。そんなお母さんを見て勇太くんは、ドンと胸をたたいて言うのです。
「お母さん、僕に任せておいて」
というわけで、勇太くんはてるてる坊主を作り、軒先につるしました。もし雨が降ったら、首をちょん切って捨てちゃうぞと言い聞かせて。そうしたら、もう10日も晴れの日が続いているのです。そういうわけで今日も、てるてる坊主に明日、晴れにするよう頼んでから、勇太くんは眠りについたのです。
「……どうしようか」
てるてる坊主は困った顔で空を見上げます。彼は明日、晴れにするか雨にするか迷っているのです。
「勇太くんの約束を守るのは簡単だけど……」
てるてる坊主が考え込んでいるのには、理由がありました。今日の昼、彼は軒先から、こんな井戸端会議を聞いたのです。
「……そうなのよ。武中さんのおうち、傘屋さんでしょう。最近売上が厳しくて、引っ越しを考えているらしいわよ」
武中さんといえば、勇太くんが大好きな女子、美琴ちゃんのおうちです。このままずっと晴れにしていると、勇太くんの大好きな美琴ちゃんが、引っ越してしまうかもしれないのです。
「言われた通り、明日、晴れにするか。自分の首と引き換えに美琴ちゃんの引っ越しを止めるか……」
てるてる坊主の長い一夜が、今、幕を開けました。